<ゆびさきと恋々>アニメで繊細な心情を表現 手話のこだわり 村野佑太監督に聞く
「月刊デザート」(講談社)で連載中の森下suuさんの恋愛マンガが原作のテレビアニメ「ゆびさきと恋々」が、TOKYO MX、MBS、BS日テレで放送される。聴覚障がいのある女子大生・糸瀬雪と世界を旅する大学の先輩・波岐逸臣のラブストーリーで、繊細な表現が魅力になっている。村野佑太監督に同作の制作の裏側を聞いた。 【写真特集】美しい映像 感情を揺さぶる表現 話題作「ゆびさきと恋々」 名場面を一挙公開
◇耳が聴こえないことを必要以上に悲しませない
--原作を読んだ印象は? アニメで原作の魅力を表現するために、大切にしたことは?
とても現代的な物語だという印象でした。身体的に特徴がある人に対してそれを枷(かせ)と捉えるかどうかは、本来他人が決めることではなくて当事者自身が決めることですよね。主人公の雪は、それを決定的な枷とは一切認識していない……。そこがこの作品の持つパワーであり現代で作品に乗せて発信すべきメッセージだなと感じました。制作現場での打ち合わせでもそこは徹底的に伝えています、「耳が聴こえないことを必要以上に悲しませないでください」って。耳が聴こえない現実やつらさを克明に描いた名作は多くありますが、この作品で目指しているのはそこではありません。
--全話の絵コンテを担当されたそうですね。
この作品を映像化するにあたって気を付けなければいけないポイントを考えた時に、絵コンテの段階で配慮しなければならない点が多過ぎたんですよね。心情の繊細な変化をどう拾うのか、原作特有の無音表現をどう映像に変換するのか、手話をする人物に対する芝居の段取り、どの手話を映してどの手話を映さないかという作画コストの計算などです。それらをフリーランスの絵コンテマンさんが他作品と並行で作業するのは難しいだろうなと……。自分でやるのが一番滞りなく進められるだろうなと考えました。
--繊細な表情や情景描写、光と影などが印象的です。アニメならではの表現で特に力を入れたことは?
マンガの時にはせりふやモノローグなどの「文字」で表現していたものを、なるべく「映像」で演出するようにしています。「きれいな空……」と言って人物が空を見上げるのではなく、黙って空を見上げて、きれいな空を見つめる瞳が静かに揺れたり……みたいな。マンガとアニメという性質の違い上、マンガの文面をそっくりそのまま映像に移すと説明過多になってしまうので、そこの取捨選択は厳しく見ていますね。光や影、雲、降雪、風、そのほか諸々が、この作品では心情を表現する上での重要なギミックです。そういったものを自然に画面に落とし込んで登場人物の繊細な心情を表現することが、この作品でやりたいなと考えていたことでした。