北朝鮮・新ナンバー2、黄炳瑞は金正恩の義兄か? 早稲田大・重村教授
北朝鮮のナンバーツーが交代した。総政治局長・崔竜海(チェ・リョンへ)氏が解任され、新たに黄炳瑞(ファン・ビョンソ)氏が就任した。だが、黄氏の正体については、ほとんど知られていない。「黄炳瑞」とは何者なのか。早稲田大学国際教養学部・重村智計教授に話を聞いた。(河野嘉誠)
スピード出世 背景は血縁関係か
北朝鮮の国営メディア・朝鮮中央通信は2日、平壌で1日に開催されたメーデー祝賀会について報じた。記事は、黄炳瑞氏が祝賀会のなかで「軍総政治局長」という肩書きで演説したと伝えた。総政治局長は、軍の人事と思想統制を統括し、最高司令官・金正恩第一総書記に次ぐ役職だ。黄氏は事実上のナンバーツーとなった。また、朝鮮中央通信は3日、これまで総政治局長を務めていた崔竜海氏が労働党書記に就任したと伝えた。 これまでほとんど表に出てこなかった黄氏だが、最近になってスピード出世を遂げていた。黄氏は3月22日に、朝鮮労働党組織指導部第一副部長だと判明した。4月15日には、軍の階級が大将に昇格した。同月26日には、金第一書記の「元帥」に次ぐ「次帥」の称号を贈られた。そして今回、総政治局長への就任が発表された。一連の昇進の背景は何か。早稲田大学国際教養学部・重村智計教授はこう明かす。 「黄炳瑞の妻は金雪松だと聞いている。金正恩の腹違いの姉だ。金正恩は義理の兄にあたる黄炳瑞を最も信頼している。軍の指導部は、総政治局長・黄炳瑞、国防副委員長・呉国烈、偵察総局長・金英徹という体制になった」 重村教授によると、雪松の母・金英淑(キム・ヨンスク)は金正日の正妻だった。金英淑と金正日の夫婦関係は金日成も公認していた。1974年生まれの雪松は、金正恩第一書記の正式な姉とされる。金第一書記はこれまで、妹の金与正(キム・ヨジョン)を書記局室長に任命するなど、ロイヤルファミリーの抜擢を続けてきた。雪松も書記局の要職に就任しているという。 「金正恩は張成沢の粛清後、身内しか信用できなくなっている。最も信頼している姉の旦那を要職につけたのも理解できる。また、崔竜海は軍人出身ではないため、軍の掌握は難しかった。金正恩は崔竜海を党務に戻し、黄炳瑞を総政治局長にすることで軍の完全掌握を図った」(前出・重村教授) 張成沢は昨年12月、クーデター疑惑により粛清された。パイプ役だった張成沢の処刑で、中国と北朝鮮の関係は悪化した。中国は今年の1月から3月にかけて、北朝鮮向けの原油輸出を完全に停止した。北朝鮮はこれまで年間50万トン超の原油を中国から輸入してきたが、3ヶ月にも及ぶ輸出停止は異例だ。重村教授はこう指摘する。 「中国からの原油が入ってこなければ、北朝鮮は軍隊を維持できない。2月から4月にかけては米韓軍事演習の時期だ。北朝鮮としては、この時期に輸出を止められたのは大きな痛手だ。中朝関係は過去最悪だ。中国は中朝首脳会談を拒否している。このため北朝鮮は核実験の準備で脅しをかけている」 国連や日米の金融制裁も重なり、外貨収入が途絶えた北朝鮮はただでさえ危機に瀕している。ナンバーツーの交代劇は、金正恩体制の強化というより、不安定な内情の裏返しなのかもしれない。