きっかけはコンビニのバイト 流通から社会の困りごとを解決する「サプライチェーン」の研究とは
客観的な立場で見る人が必要
「サプライチェーン・マネジメントは世の中を良くするためにある」と考える河合教授の研究室では、数式を解くだけではなく、社会の困りごとに飛び込んでいきます。 「いろいろな組織の人の話を聞き、絡まり合っている糸をほぐして問題点を見つけ、全体が良くなるような改善策を提案します。半歩ずつでも前に進み、その先にもっといい社会があることが予感できて、同じ思いを持つ産業界の人と共鳴し合えたときに、やりがいを感じます」 昨年、「物流の2024年問題」が盛んに報道されました。働き方改革で労働時間が規制されるためにトラック運転手が足りなくなり、物流が滞るという問題です。これついて河合教授は、「トラック輸送より前の過程に無理が蓄積していることも問題であり、物流会社だけでなく、全体としてもっと計画的に動かすことが大事」と指摘します。組織間の情報共有や協働を積極的に行い、計画的に発注をすれば、空のトラックを無駄に運転したり、夜中に到着して運転手が自分で荷物を下ろしたりする必要がなくなります。 「1つの商品が消費者に届くまでがあまりにも長く複雑なので、多くの人は全体を知りません。だから、客観的な立場で外から見られる人が必要とされます。全体が見えていない人にどうなっているのかを伝えて、話し合う場をつくることが重要です。どの業界にも属していない私のような人間が、理想を発信し続けることも大事なのかなと思っています」 日本小売業協会の流通サプライチェーン政策研究会のコーディネーターを務めたり、省庁の会議に参加したりしているのも、そのためでしょう。
教授の作ったゲームで学ぶ
授業には、サプライチェーン・マネジメントを学べる「エレファントゲーム」を取り入れています。東京理科大学の大江秋津教授と二人で開発したもので、メーカー、卸、小売の3社があり、発注や在庫管理をするゲームです。サプライチェーン・マネジメントはどこが難しいのか、どうすればうまくいくのかをゲームで体験してから、その疑問点や問題意識に刺さるような授業をするように心がけています。 「学生につけてほしいのは疑問を持つ力です。コンビニに賞味期限切れの商品が並ばないのはなぜなのか、交通系ICカードはどういう仕組みになっているのかといった疑問を持てば、大学にはそれを解決するための書籍やデータベース、専門知識を持った教員など、知的リソースがたくさんあります。疑問を持ち、探究する力をつけてほしいです」 学生たちは勉強で終わらせずに、実際に物事を動かす経験も積んでほしい。学園祭の模擬店やゼミ合宿、飲み会などを自分で企画してやってみると、参加者と企画者では得られる経験値と自信が大きく違うことを実感できます。 「失敗する経験も大切です。学生時代は安心して失敗できるし、次は成功したいというバネが生まれます。ゼミ、サークル、アルバイトなど、きっかけはいろんなところにあります。自分でチャンスを見つけて飛び込んでほしいと思います」