研究者が紐解く、前近代の日本社会が“トランスジェンダー”に与えた社会的役割
サードジェンダーが社会で果たす役割
【奥野】アメリカでもtwo-spiritsがそうであるように、最も強力なシャーマンはトランスベスタイトあるいはトランスジェンダーですね。 【三橋】やっぱりパワーが強いんでしょうね。だから恐れられるけれど、それはつまりシャーマンとしての能力が高いわけで、トランスベスタイトあるいはトランスジェンダーであることが社会においてマイナス評価にならない。 だからトランスウーマンが社会的に弱い存在であるというのは、まったく汎世界的ではないんですよね。こう言うと我田引水だと批判されますが(笑)、世界の事例や日本の歴史的事例を客観的に見ればむしろパワフルなんじゃないかと思います。 【奥野】そうですね。佐々木先生がおっしゃっていたように、シャーマンが人間であるのに動物をまとったり、男であるのに異性装をしたりするのは、2つの世界を行き来することの象徴的な行動です。 性を越境することは、人間と動物、この世とあの世のバウンダリーを超えるということとパラレルなんですね。現実世界と目に見えない世界を自由に行き来する行為が、シャーマンのパワーの源泉です。 【三橋】こうして奥野さんと話して、自分が見取り稽古的に身に付けた知識で組み立てた話があながち間違っていないとわかってとても心強いです。 これまで私は日本のトランスベスタイトやトランスジェンダーに「あなたたちは社会集団の中で恐れられ尊敬されてきたダブルジェンダーのシャーマンの遠い末裔なんだから、そんなに卑屈になりなさんな。胸を張って生きましょう」とずっと言ってきました。 でもなかなか通じないんですね。「そうは言っても差別がきつい」というのはもちろんわかります。20世紀後半の日本社会を生きてきた自分の経験からしても大変でした。でも、やっぱりそういう見方もしてほしいなと思うんです。 チャラバイの結婚ビジネスへの関与など、サードジェンダー的な存在が社会の中で担う役割の話がありましたが、ほかにもメキシコ南部のフチタン地方ではムシェと呼ばれるサードジェンダーがいて、やはり結婚に関わる役割を請け負っています。 残念ながら私はまだインドとインドネシアとメキシコの3カ所の事例しか知らないんですが、世界ではもっとあるんじゃないでしょうか。 【奥野】いろいろありますね。社会的役割を与えられていて、そのことに誇りを持つという仕組みは各地に存在します。