PEOPLE 1、"113号室"から有明アリーナに至るまでの5年間、結実の一夜を振り返る
PEOPLE 1が5年間を通して一貫して掲げ続けている究極のテーマ
ここで、スクリーンに幕間映像が映し出される。今回の問いは、「大衆音楽とは?」。それは、PEOPLE 1が、この5年間を通して一貫して掲げ続けている究極のテーマだ。様々な人が、自分が思う“大衆音楽”の定義を応える音声が次々とコラージュされていくが、誰もがその答えを一言で明確に答えられない。そして、「僕が言葉を紡げば、君と分かり合える。僕が歌を歌えば、話ができる」「なんて素晴らしい、なんて嫌な気分」というナレーションを挟み、「大衆音楽」が披露される。Deuは、全ての始まりの部屋である“113号室”を模したようなセンターステージで、パソコンに向かい、自らの創作の過程を見せながら、《あの子はラブソングに夢中》《あの子はポップソングに夢中》と歌う。《ロマンチックな歌を作ろう 君の気を引く歌を 君の言う通りにね》《こんなにも君のことを想ってしまう僕だ》これらの言葉たちが象徴的なように、この曲には、“大衆音楽”という壮大なテーマに一人で立ち向かうDeuの苦悩や葛藤の跡が深々と刻まれている。同曲を歌い終えたDeuは、そのままセンターステージ上の“113号室”で苦悶し、頭を抱え、やがて、メインステージで「怪獣」の演奏が始まる。ただし、Deuは一切歌うことなく、全てのパートの歌唱が観客に託される。全方位から大合唱が巻き起こる中、Deuは、膝をつき、椅子を倒し、床を這いつくばり、デスクの書類をぶちまける。そして、何かを悟ったように、「居場所なんかハナからないし、だったら、喉を枯らし、身を焦がして歌うしかない」「2024年12月22日、これが僕の存在証明。この有明アリーナから!」と叫び、「113号室」を歌い始める。壮大な有明アリーナに、切実に響きわたる原点の歌。あの“113号室”から始まった5年間の歩み、その日々における迷い、葛藤、苦しみ、そして、一人ひとりのリスナーとのかけがえのない出会い、それら全てが、今回の有明アリーナへと繋がっている。そう強く感じた。Deuは、デスクの上から「よかったら一緒にシンガロングしましょう」と呼びかけ、彼の想いに応え、「idiot」の《アイシテルコノセカイデボクラ アドケナイトキノユメヲミテル》の合唱が巻き起こる。そして、Deuの「愛してるぜ」という言葉から「idiot」へ。幾度となく巻き起こる《アイシテル》のシンガロングは、特別な瞬間の連続だった今回の公演の中でも、屈指の輝かしいハイライトになったと思う。 ここで、TakeuchiのMCパートへ。数年前のある日、いつも元気な母が涙を流していた時、うまく励ましてあげられなかった。家族でさえも、その人の悩みや苦しみは当人でなければ分からない。その後、「僕の心」が完成した時、あの時の母にかけてやれる言葉と出会えたと思った。そういう曲を、自分たちのバンドから出せたことがとても嬉しい。Takeuchiのエピソードを経て披露された「僕の心」は、いつにも増して深く心に染みた(なお、この日の公演には、Takeuchiの母も観にきていたという)。Itoの呼びかけを受けて巻き起こる、ラストパートの大合唱。《分かるわけがない 知るわけがない この僕の本当の心を みんなにだって そう君にだって 分かるわけがないでしょう》私たちは、結局は本質的に孤独であり、どこまでいっても一人である。それでも私たちは、それぞれが一人のまま、お互いの声を重ね合わせることができる。ライブの時間・空間だからこそ感じられるその温かな実感は、私たちにとって、何物にも代えがたい希望だ。「大衆音楽とは何か?」という壮大な問いに対する明確な答えを見つけるのは難しいし、もしかしたらそんなことは不可能なのかもしれないけれど、この日の「僕の心」は、その答えの一端に触れるような感覚をもたらしてくれたように思う。 いよいよ、ライブはクライマックスへ。「常夜燈」では、観客がスマホのライトを大きく左右にウェーブさせながらメンバーのライブパフォーマンスを美しく彩り、本編ラストの「魔法の歌」では、《恐れるな 愛おしき日々を 世界の終わりは君の左手で その反対側は僕の右手なのだ》という揺るぎない確信がメンバーから一人ひとりの観客に共有されていく。アンコールでは、Takeuchiが、年明けのぴあアリーナMM公演に心残りがあったことを振り返りつつ、「頑張ってきて、よかったー!」ととびっきりの笑顔で叫び、Itoは、世界は決して一つではない、という残酷な真実と向き合った上で、それでも、自分とは異なる他者に対してリスペクトを持ち続けていきたい、そういう気持ちを持ってみんなとも接していきたい、と語った。そして、「もうしばらく一緒にいましょう。」という呼びかけから、「紫陽花」「東京」を披露。最後にDeuは、PEOPLE 1はいつか終わることを前提としていることを改めて説明しつつ、終わりが決まっているということは、お別れの準備ができるということ、と語った。そして、「よければ一緒に踊りませんか、ラストダンスを」と告げ、ラストナンバー「エッジワース・カイパーベルト」へ。Itoも、「いつかその日が来るかもしれないけど、今日は最後まで全力でいこうぜ。」「まだまだ一緒に最高の景色を見ていきましょう」と胸の内の想いを余すことなく伝え、そして、メンバーの想いに応えるようにフロア一面が鮮やかなタオル回しで染め上げられていく。銀テープが放出され、最後の最後まで熱狂のピークを更新していくような超絶怒涛の展開が続き、この日のライブは熱烈なムードの中で万感のクライマックスを迎えた。今回の公演は、この5年間の歩みの全ての美しい結実であったが、言うまでもなく、ここは偉大な通過点でしかなく、PEOPLE 1の“大衆音楽”を追求する挑戦はこれからも続いていく。いつか終わるその日が来るまで、彼らの挑戦を全力で追いかけ続けていきたい。 セットリスト 1. アイワナビーフリー 2. さよならミュージック 3. 鈴々 4. ハートブレイク・ダンスミュージック 5. ラヴ・ソング 6. GOLD 7. 新訳:スクール!! 8. 新訳:もっと!ドキドキする 9. メリバ 10. DOGLAND 11. フロップニク 12. 銃の部品 13. Ratpark feat. 菅原圭 14. 大衆音楽 15. 怪獣 16. 113号室 17. idiot 18. 僕の心 19. 常夜燈 20. 魔法の歌 EN1. 紫陽花 EN2. 東京 EN3. エッジワース・カイパーベルト
Tsuyoshi Matsumoto