泥沼の徴用工問題 解決のカギは日本、そして韓国政府にある
元徴用工をめぐる訴訟で、韓国の原告側は新日鉄住金の韓国内の資産を差し押さえて現金化する方針を示し、日本側には報復措置として輸出制限する案が浮上するなど、泥沼化の様相を呈しています。こうした状況の打開には、日本政府、そしてとりわけ韓国政府の対応がカギになると元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏は指摘します。美根氏の論考です。 【写真】混迷する徴用工・慰安婦問題 日韓双方の主張を整理する
批判的な世論が盛り上がる日韓両国
元徴用工訴訟の原告側代理人らは2月15日、賠償協議のために新日鉄住金の本社を訪れ面会を求めましたが、実現しませんでした。彼らは韓国へ帰国次第、すでに差し押さえている韓国内の同社資産を売却し現金化する手続きを始めると宣言しています。 日本政府は、韓国政府に対し、韓国の最高裁にあたる大法院の判決は認められず、国際法と1965(昭和40)年の日韓基本条約及び請求権協定に従って解決すべきであるとの立場を伝え、誠意ある韓国政府の対応を求めてきました。
河野太郎外相は15日、ドイツ・ミュンヘンで康京和(カン・ギョンファ)外相に対し、「請求権協定に基づく協議」に応じるよう重ねて要請しましたが、康外相は「綿密に検討している」と述べただけで河野外相の要請は黙殺し、会談は平行線に終わったと伝えられています。 日韓間は、徴用工問題のほかにも慰安婦問題、韓国艦艇による自衛隊機へのレーダー照射問題、韓国国会議長の無責任な発言などのため、関係が非常に悪化しており、感情的な反発も起こっています。徴用工問題については、まず冷却期間を置くことが望まれますが、現実的には困難なのでしょう。両国で反発、批判的な世論が盛り上がっているからです。 新日鉄住金はもちろん、日本政府においても対策を検討しているでしょうが、私は次のように考えます。
「個人の請求権」は消滅していないが……
解決のカギは、日韓両国の政府にあります。「日韓両政府」と言うと、「日本政府に責任はない。韓国政府だけが問題をこじらせている」と反発する見方もあると思いますが、一方だけに責めを負わせるのでは物事は解決しません。徴用工問題は双方が協力して解決するという意識が必要です。 日韓両政府は1965年に国交を樹立し、同時に徴用工を含む請求権問題について協定を締結して一括処理しました。 新日鉄住金はこの協定の直接の当事者ではありませんが、徴用工に関する同社の責任はこの協定により処理されました。 また、新日鉄住金は、韓国政府(当時は朴正煕=パク・チョンヒ政権)が韓国企業を育成するのに協力しました。同社がPOSCO(韓国最大の鉄鋼メーカー。以前は「浦項総合製鉄」だったが2002年にPOSCOに改名)の立ち上げ・育成に多大の協力を行ったことは広く知られています。 にもかかわらず、新日鉄住金は、韓国の裁判所によって徴用工への賠償の支払いを命じられているのです。 そうなった原因は、法的には「個人の請求権は請求権協定によって消滅していない」と韓国の裁判所が判断したからです。「個人の請求権」の法的性格としては、その判断は間違いではありません。日本政府も国会でその趣旨を答弁しています(1991年8月27日参院予算委員会での、柳井俊二外務省条約局長=当時=の答弁)。