ブリのおいしい季節と関係? 北陸の冬の雷鳴「ぶり起こし」 由来を探ると
金沢出身の文豪・泉鏡花は、明治期の随筆「北国空(ほくこくそら)」で冬の雷を「鰤起(ぶりおこし)」と紹介しています。北陸では雪が降るときに雷鳴があり、このころからブリ漁が盛んになるので、そう呼ぶそうです。今も石川や富山などでは「ぶり起こし」が使われています。「雷が鳴るとブリがとれる」という言い習わしもあります。雷がブリをもたらすのでしょうか。「ぶり起こし」の「起こし」はどういう意味なのでしょうか。きょうは立冬。北陸ではブリの季節を迎えます。(朝日新聞校閲センター・佐藤司) 【グラフでチェック】冬にこんなに多い!金沢・富山の雷の日数
日本海側に多い「冬の雷」
まず雷といえば、太平洋側では夏の印象が強いです。手元の歳時記をめくると、夏の季語。ところが日本海側では、おおむね冬に多くなります。 気象庁の統計に雷を観測した雷日数の月別平年値(2020年までの30年間)があります。そのデータをもとに全国の観測地点の寒候期(10~3月)の数値を出して比べてみました。 すると、その期間の雷日数が多い上位5地点は、金沢(31.1日)、福井(24.3日)、秋田(22.9日)、新潟(22.3日)、富山(15.7日)。いずれも日本海側です。 なぜ日本海側では寒候期に雷が多くなるのでしょうか。 晩秋や初冬になると、天気予報に登場するフレーズが「西高東低の気圧配置」。これが強まると、大陸からの寒気が日本にやってきます。 金沢地方気象台によると、この季節の日本海の海面水温は、暖流の対馬海流の影響でまだ高い状態のまま。暖かい海面の上を冷たい季節風が吹くと、熱や水蒸気を蓄えるため雲が発生し、海上は大気の状態が不安定になります。 日本海側の沿岸に来るときには積乱雲に発達し、雷が発生。寒気が強ければ日本海側を中心に雪となりますが、たいていは雷のあとに雪が降るという順番になりやすいそうです。同時の場合もあると言います。
回遊するブリ、水温14度を下回ると南下
次はブリ。日本近海を回遊する温帯性の魚です。春から夏にかけて北上し、秋から冬にかけて南下を繰り返します。 水産庁などの資料によると、3歳以上の成魚で日本海を通る場合、回遊範囲が広い群れは東シナ海と北海道沿岸を往復。北海道周辺海域に北上した群れは産卵にそなえイワシなどをたくさん食べ、脂肪を蓄えると言います。 南下の目安の一つとされるのが水温。14度を下回ると南下するそうです。 気象庁の月平均海面水温の平年値を見てみました。日本海で14度を示す海域を探すと、10月は北海道の北部沖にあり、11月は北海道の南西沿岸へと南に下がっています。 「北海道周辺海域から富山湾まで1カ月ほどで移動するブリが確認されています」 こう話すのは富山県農林水産総合技術センター水産研究所の阿部隼也さん。電子タグをつけた放流調査の結果から分かったそうです。 そうすると、日本海をくだるブリの最初の群れが富山湾にやってくるのは計算通りなら11~12月ごろ。ちょうど北陸では雷が多くなる季節です。ブリのシーズン到来と雷の時期とが重なります。 雷がブリの群れを呼ぶとは考えられないでしょうか。阿部さんは雷がブリに影響を及ぼすとは「考え難い」と言います。調査結果では、ブリは水深50メートル付近を移動するからだそうです。 同じ日本海側の島根県水産技術センターの井口隆暉さんは、二つの現象は要因が異なっても寒くなる時期に起きると説明。「ブリが本格的にとれる時期と雷が鳴る時期がたまたま同じになったのでは」と考えます。 雷とブリとの関係については、詳しく分かっていないようです。