ブリのおいしい季節と関係? 北陸の冬の雷鳴「ぶり起こし」 由来を探ると
水産用語「網起こし」から? 水揚げの表現
最後は由来です。石川の「七尾地方の方言集」に「ブリオコシ」が載っていました。 意味は「ぶり網起こしの季節の雷鳴」。この中の「網起こし」について調べてみました。 手元の辞書を見ても載っていません。日本定置漁業協会などに聞くと、「網起こし」は主に定置網漁業者が使う水産用語と言います。 「網起こしは約1時間で終わった」「海が荒れて網が起こせない」といった使用例を挙げます。 さらに詳しく尋ねると、定置網に入った魚を水揚げするときに使われる表現と話します。 まず網の一端を海中からたぐり寄せ、引き揚げた網は再び海中に戻す。次から次へと網をたぐり寄せては海中に戻すことで、魚の入った網は徐々にせばめられ、魚を網の奥へと追い込んでいく。魚をすくいとりやすい状態にしてから船上に取り込む。この網をたぐっていく作業を「起こす」と説明します。 定置網漁業者から聞いたという富山の魚津水族館元館長の稲村修さんの話です。 以前、網起こしの絵と「ぶり起こし」の文字をあしらった掛け軸を地元の漁業協同組合の元組合長宅で見せてもらいました。 元組合長に「ぶり起こし」の由来を尋ねたら答えはこうです。「本来はブリが入った定置網を揚げること」。雷を指すようになったのは後になってからとか。稲村さんの話を聞いて方言集にある意味の説明を読むと納得がいきます。 「雷が鳴るとブリがとれる」。この言い習わしは初冬の雷が鳴るころ、丸々と育ったブリの群れが近づいてくる状況を指しているのでしょう。雷をブリ到来の前触れと捉えていると考えられます。 金沢大学の米徳大輔教授(宇宙物理学)は金沢の一市民として答えてくれました。 「ぶり起こしは『ブリのおいしい季節になるな』と感じる気象現象です」 雷鳴がとどろくと、北陸では雪が降りはじめます。冬の到来とともにブリの水揚げで活気づきます。「ぶり起こし」は風土と季節感に合ったことばなのです。今季は豊漁でにぎわってほしいと願ってやみません。