犬猫「殺処分ゼロ」 その裏に隠されたボランティアらの苦悩や模索
広島では大規模団体の引き受けで問題に
しかし、同じような仕組みでも一歩間違えると逆効果となる場合があります。 問題が発覚したのは広島県です。 広島県は2011年、犬猫の殺処分数が全国ワースト1位となりました。すると、国内外での災害救援活動などで知られる東京のNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)」が名乗り出て、広島で殺処分対象となったすべての犬を自分たちで引き取る計画を立てました。 PWJは「ピースワンコプロジェクト」として年間1000頭を超える引き取りに対応するため、広島県神石高原町に大規模なシェルターを建設。その財源として主に同町へのふるさと納税による寄付金が充てられました。その額は17年に約5.4億円、18年に約4.9億円。名古屋市とはケタが一つ違います。そして5年後、広島県での「殺処分ゼロ」達成を宣言しました。 ところが18年11月、広島県警がこの施設に対して狂犬病予防法違反、19年6月には動物愛護管理法違反の疑いでPWJを書類送検。民間の画期的な取り組みとの期待は一転、疑惑の目に変わり、全国の自治体や愛護団体に大きな衝撃を与えました。 一連の捜査の結果、狂犬病予防法については起訴猶予、動物愛護管理法違反は嫌疑不十分で不起訴となりました。しかし、PWJも新聞社の取材などに対し、保護犬の急増に対応が追い付かなかったこと、そのために狂犬病の予防接種が期限内にできなかった犬がいることを認めています。多額の公的な資金を使いながら、十分な体制が整えられないまま事業が進められたことは否めません。PWJの説明不足や情報公開の消極性も指摘されています。今回も取材には応じてもらえませんでした。
団体同士のネットワークがカギ
NPO法人「人と動物の共生センター」代表で獣医師の奥田順之さんは、PWJは極端な例だとしても「目の前の動物を救いたいあまり、手に負えないほど引き取ってしまったり、資金や人出が足りず困っても、どこに相談してよいか分からず抱え込んでしまったりする団体はあるのではないか」として、この分野の業界団体や団体同士をつなぐネットワークづくりの強化を提唱します。 また、「殺処分ゼロ」の機運の高まりが、プレッシャーやひずみを生み出してしまう危険性も指摘。「『殺処分はよくない』『ペットショップが悪い』『無責任な飼い主が悪い』と一方的に誰かを非難しても問題の解決にはつながらない。むしろ情報公開を渋ってますます問題を抱え込んでしまう」と、相互理解や対話を促します。 命を守るための「殺処分ゼロ」が、自治体にも保護団体にも、そして保護される犬にも苦しい状況を生み出してしまうのでは本末転倒です。 誰かが責任を丸抱えするのではなく、自治体や民間団体、飼い主が少しずつ果たすべき役割を担い、ゆるやかにつながる。そして対話しながら前向きに課題を解決していくことが「ゼロ」という数字以前に求められているのではないでしょうか。 (石黒好美/Newdra)