2024年ベストTVはソニー液晶「BRAVIA 9」、パナソニック有機EL「Z95A」に決定!!
その年に登場した製品から、読者に本当にオススメしたい優れた製品を決める「AV Watchアワード」。2023年に引き続いて今年も“No.1テレビ”を決めるべく、4K液晶テレビ、4K有機ELテレビの中から「最上位」「65型」の2つの条件に当てはまるモデルを編集部が選定。7社から11台のテレビを借り、テレビにうるさい3名の選者による主観評価と、測定器から得られたデータを基に、有機ELテレビと液晶テレビのそれぞれで「AV Watchアワード」にふさわしいモデルを決定しました。 【画像】取材時の様子 その結果、第2回目となるAV Watchアワード2024では、有機ELテレビ部門にパナソニック65型「TV-65Z95A」、そして液晶テレビ部門にソニー65型「K-65XR90(BRAVIA 9)」が大賞モデルに輝きました!! AVWatchアワード2024 結果 ・有機ELテレビ大賞:パナソニック「TV-65Z95A」 ・液晶テレビ大賞:ソニー「K-65XR90(BRAVIA 9)」 ここでは、AV Watchアワードで審査を務めた西川善司氏(連載「大画面☆マニア」担当)、秋山真氏(元コンプレッショニスト)、そして阿部邦弘(AV Watch編集部)の3名による、大賞・2モデルに対するインプレッションと総評を掲載しました。文末には、機種の選定方法から具体的な取材方法、そして測定の概要を記載しています。 なお、各モデルについてトークした「アワード座談会」の記事も後日掲載予定です。こちらもご期待ください。 記事目次 ・有機ELテレビ大賞:パナソニック「TV-65Z95A」 ・液晶テレビ大賞:ソニー「K-65XR90(BRAVIA 9)」 ・選定を終えての総評 ・テスト概要 ■ 有機ELテレビ大賞:パナソニック「TV-65Z95A」 圧巻は透徹されたブルーレイ画質。今年も有機ELビエラの独壇場だ(秋山) 昨年、本命視されながらも、放送と配信の画質が大きく足を引っぱり、大賞を逃した有機ELビエラ。しかし、今年は発表会などでそれらの画質改善を大きく謳っていて、「これってAV Watchアワードの影響?」と自意識過剰になってみたりもしたのだが、おそらくメーカー自身も分かっていたことなのだろう。いずれにしても、自らの弱点をしっかり認識して対策が行なわれたことは大いに評価したい。 とはいえ、私が本機を大賞に推した理由はそこではなかった。放送画質については、マシにはなったが、ノイズリダクションのかけ方がはっきり言って下手。社内にはディーガやPHL(パナソニックハリウッド研究所)で培われたノウハウもあるはずだ。 配信画質に至っては、YouTube「ポケモン」のフレーム補完エラーが酷く、デフォルト設定では正直観ていられないほど。破綻の仕方がTCLと全く同じなので、おそらく汎用チップのデコードをそのまま垂れ流しているのだと思うが、ここはしっかりプリセット値を変更しておくなど、細かい気配りが欲しかった。一方で、それらの影響を受けないNetflix「シティーハンター」のDolby Vision画質は良好だ。 圧巻はHDMI入力時の透徹されたブルーレイ画質だろう。画面の向こう側まで展開する立体映像は、今年も有機ELビエラの独壇場だ。超難関であるUHD BD「すずめの戸締まり」の主人公すずめのスキントーンも、BVMと合致していたのは本機だけ。測定結果も文句のつけどころがなく、特に「シネマプロ」のグレースケールのデルタE Avの値が、昨年1.4、今年1.2とほとんどブレがないのは、品質管理が徹底されていることの証左であり、特筆に値する。 そういう意味では依然、“テレビ“よりも“モニター”としての評価が突出しているが、昨年は評価の低かった内蔵スピーカーの音質が飛躍的に改善して、今年のナンバーワンに躍り出たこと。さらには、ゲームの入力遅延にメスが入って最速を叩き出したことが決め手となり、ついに栄冠を勝ち取った。 有機ELにかける、ビエラ開発陣の意気込みが詰まった1台(阿部) 前回覇者のLG、そして安定した映像品位で猛追したソニーを振り切り、有機ELテレビのテッペンを今年勝ち取ったのはパナソニック「Z95A」だった。 ちょうど1年前、第1回開催で大賞を逃した「TH-65MZ2500」に対して“BD再生に最高のパートナー”と評した通り、パナソニックの有機ELテレビは当時から、ことHDMI入力経由の映像表示だけは並外れていた。自発光ならではの漆黒とピークの煌めき、高級レンズのようなクリアな抜けと解像感、そしてほぼマスモニレベルの滑らかな暗部階調――。マスモニと睨めっこしながら「こりゃ映画好きなら、MZ2500一択だわ!」とは思ったものの、肝心の放送や近年注目を集める動画配信サービスのクオリティがイマイチで、しかも豪華な見た目の割にもやっとしたサウンドがピンとこなかった。 しかし、2024年モデルのZ95Aは違った。入力信号を正しく映す優れたモニター品質はそのままに、放送における圧縮ノイズや、配信で目立つバンディングノイズに対してメスが入るなど、従来よりも格段にまともになった。控えめで鈍重だったサウンドも、快活で迫力あるチューニングに変わっている。 各種測定に関しても好成績をマーク。遅延性能はトップクラスだし、ピーク輝度においても全有機ELテレビで最高値を記録。色のズレ(色差)を表す測定基準・デルタE値も2年連続で1.5未満(=肉眼では色の差分をほぼ認識できないレベル)となるなど、まさに非の打ちどころのない結果だった。有機ELにかける、ビエラ開発陣の意気込みが詰まった1台と思う。 有機ELテレビが欲しいの? だったら今期は総合力の有機ELビエラ買っておけ(西川) 実は、主観的な画質評価の総合点ではソニー「XRJ-65A95L」の方が、本機に対し微差で勝っていた。では、本機が優勝した要因はどこにあったのか。それは「ゲーム性能」と「測定値」の結果において、「TV-65Z95A」が「XRJ-65A95L」を上回っていたところが大きい。特にゲーム性能においてはPlaystationブランドを有するソニーの「XRJ-65A95L」を圧倒的に上回っており、結果、総合力的に見て、筆者は本機「TV-65Z95A」を最優秀有機EL機に推した。 とにかくパナソニックの「Z95A」はオールラウンドによく出来たテレビであった。スピーカーの音質も良好でビックリだった。 以前の有機ELビエラは「よく出来たモニター」という感じで「ブルーレイ映画見るにはいいよね」という感想は抱けるが「テレビとしての完成度」については正直言って「もっと頑張ればいいのに」という印象を持っていた。 しかし、今期ビエラはどうだ!? 「ブルーレイ視聴用モニター的な画質」は相変わらずいいし、テレビ放送、配信映像の画質までもが向上し、ゲーム関連機能においては、昨年のチャンプLGを上回るポテンシャルまでを発揮。「実は、今まで本気出してなかったんですよ。へへへ」と、昨年モデルのユーザーを逆なでするほどに今期モデルは良くなってしまっている。きっとパナソニックは過去モデルユーザーからはお怒りを喰らうに違いない(笑)。しかし、今期の有機ELビエラは、それくらい進化してしまった。 そろそろ有機ELテレビが気になる……という人も多くなっていると思うが、そんな迷える子羊たちには一言だけ送ろう。「有機ELテレビが欲しいの? だったら今期は総合力の有機ELビエラ買っておけ」だ。 最後に他社モデルもフォローしておくと、今回、本アワードに出場した有機ELテレビは、画質面ではだいぶ拮抗していたと思う。特にLG「OLED65G4PJB」「XRJ-65A95L」は筆者好みの画質であった。 ■ 液晶テレビ大賞:ソニー「K-65XR90(BRAVIA 9)」 マイルストーンとして語り継がれるモンスターテレビの出現だ(秋山) これからしばらくの間、ミニLED液晶テレビのマイルストーンとして語り継がれるであろう、とんでもないモンスターテレビの出現である。 昨年は守りに徹したことで、半ば消去法のような形で大賞に選ばれた感もあった液晶ブラビアだったが、今年は怒涛の攻めで他を圧倒し、ブッチギリで液晶部門を制した。 我々審査員は決して有機EL信者ではない。現にリファレンスに使用しているマスターモニターBVM-HX3110は液晶であり、有機EL時代のBVM-X300を輝度だけでなく、総合的な画質でも凌駕している。しかし、民生機においては、「ミニLED液晶テレビはたしかに明るいが、本質的な画質ではまだまだ有機ELには及ばない」というのが、昨年のアワードでの結論だった。それだけに今年、有機EL部門を含めた総合得点で本機がナンバーワンに躍り出たというのは衝撃であり、フラットテレビの歴史の転換点となるかもしれない。 測定結果からも分かるが、とにかく明るい。10%のピーク輝度は全11台でトップ。昨年のXRJ-65X95Lと比較すると、(計測方法に違いはあるものの)じつに4倍の数値を叩き出している。 ただ明るいだけじゃない。黒は液晶テレビとは思えないほど締まっていて、暗部階調にも揺るぎがない。ローカルディミングの精度は図抜けていると言っていいだろう。そこに、昨年も高評価だった放送画質や配信画質が加わるのだから、まさに鬼に金棒だ。(ただし、ゲームの入力遅延はブッチギリの最下位) 伝統のソニートーンは、相変わらず赤みが強いが、一昔前のような酷さではない。グレースケールのデルタE Avの値も、4.3と昨年より僅かに悪化しているものの(本来は3以下が望ましい)、全体の雰囲気は意外なほどBVMに近く、多くの編集スタジオでブラビアがクライアントモニターに採用されているのも納得がいく。 デバイスの壁を超え、明るさで“高画質”を再定義する。ソニーの技術力の高さ、本気になった時の恐ろしさをまざまざと見せつけられた、2024年のナンバーワンテレビである。 通常の液晶テレビでは体感できない圧倒的な輝度とコントラスト(阿部) 正直に白状すると、民生用の液晶テレビで心ときめいたのは、ソニーの85型8K液晶ブラビア「Z9H」(KJ-85Z9H)以来だ。Z9Hを初めて見た時と同様、通常の液晶テレビでは体感できない圧倒的な輝度とコントラストの表現に圧倒された。 液晶の画質を左右するキモは、バックライト制御とプロセッサによる画質処理だ。近年は、テレビだけでなく、チューナーレス機やPCディスプレイといった製品でも、輝度の高さや分割数の多さをアピールする製品が増えている。ただ実際に現物を見ると、暗部ウキウキのただ明るく光っているだけの製品や、本当にこの分割数で動いてますか? と感じざるを得ない、制御がプアな製品も目立つ。 しかし、BRAVIA 9は違う。映像の内容とバックライトの明暗動作が同期し、炎やネオン、シャンデリアなどの発光体から、カーテン越しに差し込む柔らかい光線、暗闇とその中でうっすら浮かぶ人や街のシルエットまで、まるで現実世界を見ているような光の眩しさ、暗さが再現されていた。場面によっては、自発光ディスプレイ並みに「黒が黒い!」と感じたほどだ。 ハッキリ言って、BRAVIA 9は競合製品に比べて赤みが強い(念のため、都内の量販店でも機体を確認したがやはりどれも赤かった)。ただ、人肌が黄色がかったり、紫色がかったりする機体も出る中(輝度優先の弊害?)、健康的で好ましく見える“赤みのお化粧”は許容範囲だろう。ゲーム性能と価格を無視すれば、今年ナンバーワンのテレビだと思う。 「ミニLED×量子ドット」におけるベンチマーク的存在のモデル(西川) 今回のアワード出場の液晶機は、よくいえば個性豊かであった。「なるほど、ここはこういう画質にしたいのね」という感じで、各モデルの後ろに、主張の激しい開発者が見え隠れするほどには豊かであった。 そんな個性派揃いの液晶機の前を右往左往して評価を繰り返す流れの中で、毎テスト項目、ソニー「K-65XR90」の前に来るとホっとする自分がいた。指をくわえながら「ポッ。好き」とつぶやく自分がいた。実際、主観的な画質評価では、今回の審査員の全員がトップに推していたので、みんな似たような気持ちだったのだろう。そして主観的な画質強化だけでなく測定値も良好だから裏付けもある。 ところで「ミニLED×量子ドット」という真新しいデバイスは、人類にとってまだまだ荒々しい「じゃじゃ馬」である。潜在的に色域が広いのは間違いないが、だからこそRec.709色空間ベースのSDR映像とRec.2020色空間ベースのHDR映像の双方において、最暗部から最明部までを一貫性と堅牢性を持って発色特性と階調特性をうまく手懐けられているメーカーはまだ少ない。少なくとも筆者はそういう印象だ。前述した「今期の液晶機は個性派揃い」という印象の根源は「このあたりに理由がある」のだろう。 そんな中にあって、ソニーの「K-65XR90」は、うまくこの「じゃじゃ馬」を飼い慣らせているのだ。「やたら高輝度×やたら広色域」である「ミニLED×量子ドット」を現状、最も、手懐けることに成功したのはソニー「K-65XR90」なのだと思う。「ミニLED×量子ドット」の液晶テレビの画質において、「K-65XR90」はベンチマーク的な存在だと思う。思えば、ソニー・ブラビアは液晶機ではAV Watchアワード2連覇なのだ。これは凄い。 ブラビアに残された課題はゲーム性能だけ。遅延性能は今回のアワード出場機の中で有機ELも液晶も両方でダブル最下位獲得はPlayStationブランドを有するソニーとしては不名誉以外のなにものでもない。ちょっと前まではレグザと業界最低遅延を争っていた時のブラビアよ「もう一度」。ソニーのゲーミングモニター製品ブランド「INZONE」のポテンシャルをブラビアにもお願いします。 ■ 選定を終えての総評 第2回「変態の変態による変態のためのテレビアワード」を終えて(秋山) まず最初に、審査の終盤において私が溶連菌に感染してしまい、内蔵スピーカーの音質チェックに立ち会えなかったことをお詫びしたい。昨年のアワードの打ち上げの席では、「来年は審査項目を簡略化して、もう少しラクやりたいね」などと話していたのに、蓋を開けてみれば、今年も審査期間は8日間。審査項目も全然減っていないどころか、TCLの新規参戦によって台数が増えるという事態に、身体が嬉しい悲鳴(?)を上げてしまい、あえなく途中リタイヤとなった。西川さんと阿部さんには大変ご迷惑をおかけしたが、来年こそは過酷な審査を完遂できるよう、今からチョコザップに通おうかと考えている。 さて、今年の有機EL部門は先述のとおりパナソニックのTV-65Z95Aが大賞に選ばれたが、決して完勝というわけではなく、実際のところは上位3機種による接戦だった。 事前予想ではLGの連覇もあると思っていたが、最新MLAパネルの高輝度性能を前面に押し出し過ぎたのか、昨年高評価だった地デジ画質が少しノイジーに感じられるなど、チューニング不足な部分が散見され、加えて、前モデルでAv 0.5という衝撃の値を叩き出したグレースケールのデルタEの測定結果も、今年は個体差が影響したのか、2.9に後退。3以下なので民生機としては十分な精度ではあるのだが、アワードも2年目となると、他社製品だけでなく、昨年の自社製品も比較対象となってしまうため、それらがネガティブな印象に繋がってしまったことは否めない。連覇の難しさを痛感させられた次第だが、その一方で、昨年指摘した「シネマモードが明るすぎる問題」は、FILMMAKER MODEの輝度を下げることで一定の改善が図られており、さらなる追い込み次第では、来年モデルでの返り咲きも十分にあり得るだろう。 有機ELブラビアも今年は良かった。QD-OLEDの泣き所だった暗部ノイズがほとんど気にならなくなり、量子ドットの広色域を誇示するような人工的な色使いも影を潜めた結果、大きな減点要素がなくなって、ゲーム以外の全項目において平均以上のスコアを獲得。その結果、総合得点では3機種中トップとなった。にも関わらず、大賞に選ばれなかったのは、そこに突出した魅力を見出せなかったからだ。つまり、3人の変態を興奮させることが出来なかったのである。 その代わりに今年、我々を大いに興奮させてくれたのが、「BRAVIA 9」ことK-65XR90だった。これまで「液晶よりブラウン管」「液晶よりプラズマ」「液晶より有機EL」だった私が、初めて心から「欲しい!!」と思えたミニLED液晶テレビであり、自分の映像人生にとってもマイルストーンとなるに違いないソニー渾身のフラッグシップモデルだ。 先ほど、実力伯仲の有機EL部門は連覇が難しいと述べたが、液晶部門については当分の間、ソニーの独走が続くのではないかと予感させるほど、レベチなパワーと完成度で圧勝した。 その他、本稿で触れなかった製品については、後日公開予定の座談会のなかでインプレッションを語っているので、そちらをお待ちいただきたい。最後になりますが、今年もAV Watchアワードにエントリーしてくださったテレビメーカー各社と、関係各位に心より感謝申し上げます。 秋山真 プロフィール 20世紀最後の年にCDマスタリングのエンジニアとしてキャリアをスタートしたはずが、21世紀最初の年にはDVDエンコードのエンジニアになっていた、運命の荒波に揉まれ続ける画質と音質の求道者。2007年、世界一のBDを作りたいと渡米し、パナソニックハリウッド研究所に在籍。ハリウッド大作からジブリ作品に至るまで、名だたるハイクオリティ盤を数多く手がけた。帰国後はオーディオビジュアルに関する豊富な知識と経験を活かし、評論活動も展開中。愛猫2匹の世話と、愛車のローン返済に追われる日々。 ミニLED液晶テレビの進化が目覚ましい。頑張れ有機ELテレビ(阿部) テレビの取材に携わってから20年近くになるが、液晶テレビの輝度が1年間でここまで伸長した例は初めてではないか。2023年の最上位モデルと比べても、'24年のハイセンス・レグザはピーク輝度2倍、ソニーは4倍にまで急伸。全白輝度の平均値(6社の標準/AI系モード)は今年、ついに800nitsにまで達し、数年前の最上位機種がピークでやっと届いていたレベルすら上回ってしまった。 「テレビの明るさは七難隠す」とでも言ったらよいのか。たとえ色の再現や暗部描写がイマイチでも、パッと見の明るさの印象の良さが勝る。有機EL派の私も、今年の液晶テレビを並べて観たとき、大幅にアップした明るさに魅了され「これで十分な気もしてきた」とも一瞬思ったりした。しかしやはりコンテンツや視聴環境を変えて見ていくと、“明るさだけが全て”ではないことに改めて気付く。拗らせオヤジゆえ、人肌が転んだり、ハローが盛大に見えたり、暗部が締まってないと、鑑賞に集中できない質なのだ。 その点、ソニーBRAVIA 9はどのコンテンツ、どの環境下においても表示品質が終始安定していた。緻密で高精度なバックライト制御と画像処理の両輪が、巧みに機能した好例と感じたし、何よりあの最新マスターモニター「BVM-HX3110」との比較をプレス向けの内覧会で披露するくらいだから、ソニーの開発部隊もよほどの自信があったのだと思う。BRAVIA 9に触発されるであろう他社のミニLED液晶テレビが来年どのように進化してくるのか、非常に楽しみだ。 対する有機ELテレビは、各社パネルの使いこなしや機能のアップデートにメスを入れるなど、(液晶のドラスティックな輝度アップに比べれば)全体的に割と小幅な進化だった、というのが正直な感想だ。ただその中でも、Z95Aがテッペンを獲ったのは、愚直に“パネル性能の最大化”を追求しながら、放送や配信などの弱点を潰し、テレビとしての完成度を高めてきた成果に尽きるだろう。 メーカーによればここ数年、ミニLED液晶テレビの市場の伸びが顕著で、売り場でも有機ELテレビ購入検討者がミニLEDに寄せる関心度も年々高まっているそうだ。明るさだけが全てではないが、虫も人も明るいのがお好き。それはテレビデバイスの歴史が証明している。有機ELパネルの“超進化”に期待したい。 阿部邦弘 プロフィール オーディオ・ビジュアル専門誌の編集に約13年従事した経験を活かし、AV Watchでは主に映像系のネタを担当。自宅では、液晶(BVM)と有機EL(PVM)のソニー製2K業務用モニター、4K HDR対応のキヤノン製モニター、QUALIA 015を夜な夜なシュートアウトさせてニヤニヤしている拗らせ変態。マイブームは華原朋美「storytelling」のソニープレス盤CDをブックオフで探すこと。 読者の皆さんの要望が強ければ、来年もあるかもしれない(西川) 昨年のAV Watchアワード2023は、業界界隈ではちょっとだけ話題になったらしい。「液晶機でソニーが優勝はともかく、有機ELでLGが優勝したんだって」と。 なにしろ画質評価も「画質のいい4Kブルーレイを見て終わり」ではなく、主観画質評価においては、録画ではないアンテナ経由の生テレビ放送に、映像配信サービスにおいては実写コンテンツだけでなく「ポケモン」アニメまで見るのだ。そんなテレビアワードは他にはないだろう。そして画質については主観だけでなく測定値による定量評価も行なうし、音質評価やゲーミング性能評価も行なう。ここで選ばれた優勝モデルは、審査員を務めた我々が「そのテレビのオールラウンド性能を保証する」ということに相当するのだ。話題に上がって光栄である。 ということで、今回の有機ELモデルで優勝したパナソニック「TV-65Z95A」は、昨年のAV Watchアワード2023での結果を踏まえて「あの審査員のヤツラ、許さん。今年モデルを喰らいやがれ!」といわんばかりに、昨年、我々が指摘した課題を克服してしまっていた。まるで「1年越しの文通」かのように、今回、我々はパナソニック「TV-65Z95A」を評価して「あれ? なんか改善されてるゾ」と、全員で顔を見合わせてしまった。 だからパナソニック「TV-65Z95A」が優勝した……わけではないのだが、少なくとも昨年指摘した弱点が克服されたために評点は自ずと底上げがなされてしまうわけで、結果、パナソニック「TV-65Z95A」は全方位優秀な有機ELテレビとして仕上がってしまったようだ。 「進化・改善の振り幅」……という意味では、シャープ・アクオスの液晶機・有機EL機も素晴らしかった。液晶機も有機EL機も量子ドットの「手懐け」感が進み、昨年モデルで見られたようなギョっとするサイケデリックな発色が"なり"を潜め、落ち着きと艶やかさを両立する美麗画調となった。さらにいえばゲーミング性能も改善されてオールラウンド性能が向上していた。 そうそう。ソニーは液晶機で今回でなんと2連覇を達成してしまった。さすがです。しかも有機EL機だって、ギリギリ僅差で優勝に届かなかったというレベルの高さ。最近モデルではゲーミング性能こそは奮わないが、ブラビアって画質については安定して優秀なのであります。 LGは大きな進化は感じられなかったが、昨年同様にオールラウンドな優秀性を見せていた。相変わらず「選んで失敗無し」の高完成度のモデルであった。 レグザは、放送・配信の画質は良好で「テレビ受像機」としてのポテンシャルは相変わらず優秀。ゲーミング性能が優秀なのも「いつも通り」だが、しかし! 業界最速な遅延性能はついに、今回、LGとパナソニックに抜かれてしまった。「ゲームはレグザ」ブランディングのためにも首位奪還が望まれる。 TCLやハイセンスの中華勢は実勢価格が安いことを考えればコスパは圧倒的。画質面で「強い個性」を感じることもあったが「発色がおかしい」というレベルではない。他と見比べたりせず、慣れてしまえば気にならない。ゲーミング性能も、ソニー・ブラビアよりはマシだ。寝室、子供部屋、書斎などに置く、「そのお家の2番手テレビ/モニター」として選ぶのはいいかもしれない。 このAV Watchアワード。果たして第3回目があるのかは不透明だが、読者の皆さんの要望が強ければ、来年もあるかもしれない。ではまた。 西川善司 プロフィール 大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。東京工芸大学特別講師。monoAI Technology顧問。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。 ■ テスト概要 機種選定について 2024年8月の取材時点で、発表・発売済みの4K液晶テレビ、および4K有機ELテレビの中から、「最上位」「65型」の2つの条件に当てはまるモデルを編集部が選定。シャープ、ソニー、ハイセンス、パナソニック、LGエレクトロニクス・ジャパン、TVS REGZA、TCLの7社から11台のテレビを借りた。 市場で販売されているものと同等の量産品を貸し出し依頼しているが、メーカーの都合で試作品も含まれる。設置と並行して、全機種を完全リセットし、工場出荷状態に戻して取材を行なった。 比較したテレビ製品 有機ELテレビ ・シャープ「4T-C65GS1」 ・ソニー「XRJ-65A95L」 ・パナソニック「TV-65Z95A」 ・LG「OLED65G4PJB」 ・TVS REGZA「65X9900N」 液晶テレビ ・シャープ「4T-C65GP1」 ・ソニー「K-65XR90(BRAVIA 9)」 ・ハイセンス「65U9N」 ・パナソニック「TV-65W95A」 ・TVS REGZA「65Z970N」 ・TCL「65C855」 取材方法について 「放送画質」「配信画質」「BD/UHD BD画質」「音質」の4項目を重点的に、2024年9月5日から9月13日まで検証。液晶テレビ、有機ELテレビをそれぞれ横一列に並べ、同時に比較視聴した。審査対象は床置きではなく長机に乗せている。 放送は照明あり(約432lx~585lx)、配信は照明あり/なし、BD/UHD BDは照明なしと、ソースで環境を変えた。明るさセンサーは動作に応じて入切の映像を確認した。 テレビ側のモードは、BD/UHD BDのみ「シネマ系」(シネマプロ/シネマダーク/映画プロ/映画など)、放送や配信は「おまかせ系」(AIオート/オートAI/おまかせAI/AI自動など)で視聴した。LGとTCLは「標準」で視聴。ソニーの場合は「シネマ」「スタンダード」を選び、「オート画質モード:入」とした。なお、モード内の細かい設定は変更を加えず、デフォルトを基本とした。 視聴は、液晶→有機ELの順番で実施。リファレンスとして、視聴場所の中央にマスターモニターを設置し、適宜差分を確認した。 配線に関しては、放送は分配器を経由させて各テレビのアンテナ端子へ接続。配信は1つのWi-Fiルータから各テレビへ無線接続。BD/UHD BDは分配器から各テレビのHDMI端子(4K120p入力対応ポート)へ接続した。アンテナ線・HDMIケーブルは、同一ブランド・同一型番で統一。電源も、テスターを使って極性を確認した後、同一ブランド・同一型番のタップから供給した。 測定について パネル性能の測定には、キャリブレーションサービスを展開する株式会社エディピットに協力を依頼。視聴に用いる「シネマ系」「おまかせ系」の2つのモードで、色温度D93/D65のHDR信号を入力。カラースペース(BT.2020)、EOTF、RGBバランス、色精度(デルタE)、10%輝度(ピーク輝度)、全白輝度をソフトウェア「Calman Ultimate」で測定し、各種データを視聴時に活用した。条件を揃えるため、テレビ側のモードは「シネマ系」「おまかせ系」とも、デフォルト状態としている。 なお、リファレンスとしたマスターモニターには簡易キャリブレーションを実施し、RGBのバラツキを補正させた上で視聴を行なっている。 各モデルの測定結果は、製品ごとの紹介ページで掲載している。 主に使用した機材・ソフト一覧 マスターモニター ・ソニー「BVM-HX3110」 BDレコーダー/プレーヤー ・パナソニック「DMR-ZR1」 ゲーム機 ・マイクロソフト「XBOX SERIES X」 ※ゲーム信号テストに使用 ・ソニー「PlayStation 5」 ※ゲーム信号テストに使用 HDMI分配器 ・イメージニクス「US-88」 HDMIケーブル ・イメージニクス「UHP-5」 アンテナ分配器 ・DXアンテナ「8DMLS」 アンテナケーブル ・サンワダイレクト「500-AT001-5BK」 HDMI2.1ソーステスタ ・ASTRODESIGN「VA-1849-C」 照度計 ・横河計測「51011」 分光色彩照度計 ・セコニック「C-7000」 照度・輝度計 ・コニカミノルタ「CA-410(CA-P427)」 キャリブレーションソフト ・Portrait Displays「Calman Ultimate」 UHD BD/BD ・「マリアンヌ」 ・「すずめの戸締り」 ・「8K空撮夜景 SKY WALK TOKYO/YOKOHAMA」 ・「Chris Botti in Boston」 ・「Spears & Munsil Ultra HD ベンチマーク(2023)」 放送 ・NHK総合「列島ニュース」 ・NHK総合「虎に翼」 Netflix ・「シティーハンター」(Dolby Vision) YouTube ・【公式】アニメ「ポケットモンスター」第1話「ピカチュウ誕生!」(アニポケセレクション)
AV Watch,AV Watch編集部