センバツ2022 市和歌山、歓喜の決着 19年以来の8強 きょう大阪桐蔭戦 /和歌山
地区王者連破で8強入りだ――。1回戦で昨秋の東北大会優勝の花巻東(岩手)を降した市和歌山は27日、2回戦で関東王者の明秀日立(茨城)を相手に2―1でサヨナラ勝ちした。先制されるも直後に追いつき、最後は米田天翼投手がバットで試合を決め、2019年以来のベスト8進出を果たした。準々決勝は大会第9日(28日)の第4試合(午後4時開始予定)で大阪桐蔭(大阪)と対戦する。【橋本陵汰、中田博維、平本絢子】 逆境を耐えに耐えた選手たち。正念場で見せた底力で息詰まる接戦を制した。 六回、相手の1番打者・本坊に二塁打を許すと犠打、中前打で先制された。しかしその裏、1死から打席に立った松村は「3人で終わると流れが行ってしまう。何とかして塁に」と意気込んだ。ここで飛び出したのが、甲子園初安打となる右前打。父崇弘さん(46)は「どんな形でもいいから塁に出てくれと思っていた。1本出てほっとしている」と胸をなでおろした。 これに1回戦絶好調の堀畑がこの日2本目となる右前打で続くと、2死一、三塁から寺田が左前に運んで同点に。半田真一監督がこの試合のキーマンに挙げていた松村、寺田が期待に応えた。 八回は1死二塁の窮地をしのいだが、九回には更に2死二、三塁の大ピンチ。ここで迎えたのは、この日2安打を許している本坊だった。「(松村から)『エースの意地を見せてくれ』と言われ、もう一つギアが入った」と米田。エースの真価を示す熱投で二ゴロに仕留めて踏ん張った。 相次ぐピンチをしのいだ市和歌山にチャンスが巡ってきた。九回裏、先頭の寺田がこの日3安打目を放つと、相手守備のミスを見逃さず、一気に二塁を奪う好走塁。申告敬遠などで1死一、二塁とし、打席には9回1失点の力投を続けてきた米田が立った。 攻撃のタイムを取り、半田監督が米田に伝えた。「九回表のピンチを切り抜け、ここまでいいゲームをしてきたのだから、後はお前がしっかり振れ。決めろ」と。指示通り振り抜いた打球は、右中間を破るサヨナラ打。米田は「今まで耐えてきたことがやっと報われたかなという思いで感情が爆発した」と喜んだ。相手の猪俣とのエース対決に自らが終止符を打ち、昨年、先輩が成し遂げられなかった8強をつかんだ。 2019年のセンバツ8強を経験し、3年時には主将を務めた上原拓海さん(19)は、後輩たちの活躍を甲子園で見守り、「本当に良かった。ベスト8は強豪校の集まり。(次戦の)大阪桐蔭は強いが、自分たちの野球をしてほしい」とエールを送っていた。 半田監督は2回戦を前に、「ビハインドでも食らいついて追いつき、逆転して後半に勝てたら」と語っていた。指揮官が思い描いた展開で劇的な勝利を収め、チームの勢いは加速するばかりだ。 ◇喜びのポンポン ○…昨年に続き、アルプススタンドから踊りで選手らを鼓舞するバトン部。この日もポンポンを持ち、吹奏楽部が演奏する応援曲に合わせてパフォーマンスを披露した。六回の攻撃では、「『諦めずに最後まで』という気持ちで踊った」と意気込んだ増田梨乃部長。その思いが届いて同点となった。「いつも通り最後まで頑張ってほしい」と選手らにエールを送っていたが、それに応えてチームはサヨナラ勝ち。部員らは頭の上でポンポンを持って拍手し、喜んだ。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇一球集中、重責果たす 寺田椋太郎選手(3年) 1回戦、2回戦とも3安打。「甘い球をしっかり仕留められていると思う」。4番打者の重責を果たし、口ぶりには自信が漂う。 六回2死一、三塁の好機。半田真一監督から「一番バットを振っているのはお前なんだから自信を持っていけ」と送り出された。左前に同点打を放ち、「打った瞬間に抜けたと分かった。すごくうれしかった」と右手でガッツポーズ。先頭打者だった九回には中前打で口火を切り、サヨナラ勝利を呼び込んだ。 昨秋は不調に苦しみ、新人戦、近畿大会とも結果を残せなかった。毎朝、始発でグラウンドに行き、ひたすらバットを振る日々。冬場は「一球で捉えることに集中した」という。また、市和歌山ならではの強みもある。一つ上には世代ナンバーワンと称された小園健太投手(DeNA)がいたため、「トップレベルの球を間近で見られた。小園さんより上はいないと心に余裕が生まれた」という。 祖父母が市和歌山(当時は市和歌山商)出身。「甲子園で勝って母校の校歌を聴かせてあげたい」。大会前に挙げていた目標は、2度果たした。頂点に上り詰め、あと3回校歌を歌えるよう、渾身(こんしん)の力をバットに込める。【橋本陵汰、平本絢子】