『おむすび』“歩”仲里依紗の中で再び動き出した真紀との時間 孝雄の心はいまだ復興せず
『おむすび』“復興”できない孝雄の心
歩が神戸に帰ってきたのは、震災以来、初めて神戸に戻った結が心配だったのもあるのではないだろうか。結たちよりひと足先に2年前、仕事で神戸を訪れたときは苦しい気持ちになったという歩。「今は?」という結の問いかけに彼女は何も答えなかった。 2年ぶりに真紀のお墓参りに訪れた歩はしばらく間が空いたことを謝罪し、「これからはちょいちょい来れると思う」と笑顔で語りかける。胸が痛まないわけではないが、時間をかけてようやく、こうして真紀に今の自分について報告できるくらい前に進むことができた。だけど、孝雄の時間はあのときからまだ止まったままなのかもしれない。お墓で偶然にも再会した歩に「もうここにはこんといてくれ」と彼女が供えてくれた真紀の好きな花を突き返す。もともと孝雄と歩の父・聖人(北村有起哉)とアーケードの設置をめぐって対立していたが、きっとそれが理由ではないだろう。見た目も大人の女性に成長し、前に進んでいる歩を見ると「もし真紀が生きていたら」と想像して苦しくなるからではないか。少なくともまだ、孝雄は誰かと真紀との思い出を語り合える段階にはいない。 一方で、栄養専門学校に通い始めた結はどんどん前へと進んでいく。授業も本格的になり、なかなか勉強についていけない結だが、対照的に同じ班の沙智(山本舞香)は優秀だった。そんな沙智が目指すのは、アスリートの栄養サポートや食事管理をするスポーツ栄養士。だが、佳純(平祐奈)や森川(小手伸也)曰く、その必要性はまだ世の中に認知されておらず、かなり狭き門で本人の熱意や努力だけでなれるような職業ではないという。 その話をさも他人事のように聞いている結だが、彼女もプロ野球選手を目指す翔也(佐野勇斗)のために栄養士を志した。ということは、行き着く先は沙智と同じスポーツ栄養士の道なのではないだろうか。今は全く噛み合っていない二人だが、いずれは同じ夢に向かって切磋琢磨する仲間になれる……かもしれない。
苫とり子