パリ五輪柔道で永瀬連覇 注目される王者の今後<2024長崎スポーツ この1年・1>
五輪イヤーの2024年は長崎もスポーツの話題であふれた。パリ五輪の柔道男子81キロ級で永瀬貴規(旭化成)が連覇を果たしたのをはじめ、角界では平戸市出身の平戸海が県勢23年ぶりの新三役となる小結に昇進した。10月にはスタジアムとアリーナを核とする長崎スタジアムシティが開業。サッカーJ2のV・ファーレン長崎は昇格こそ逃したが、リーグ戦で3位と健闘した。夏秋には全国規模の総合スポーツ大会が県内で開かれた。長崎スポーツのこの1年を振り返る。 つい30分前に「きょうは軽く体を動かす程度」と言っていた金メダリストが、気付けば大粒の汗を道着の袖で拭っていた。果敢に挑んでくる後輩たちをがっしりと受け止め、パリ五輪でも見せた鋭い足技で倒す。間髪入れずに次の相手が向かってきても、投げる。その次も。 パリ五輪の男子81キロ級で連覇の偉業を成し遂げてから3カ月後。10月下旬、母校の長崎日大高に凱旋(がいせん)した永瀬貴規は報告会を終えてほどなく、後輩たちと乱取り稽古に励んでいた。 母校の道場は「初心に返れる場所」なのだという。国際大会の優勝から遠のいていた昨年末も同じように部活動に参加。そこから右肩上がりにスランプを脱して金メダルにつなげた経緯がある。立ち止まったり、悩んだりしたときに道しるべになってくれる。そんな場所で、この日も無心で練習を続けていた。 パリは集大成と位置づけて臨んだ自身3度目の五輪だった。「最後は最高峰の舞台でやり切って、畳を降りたい」と言ったこともあった。そして有言実行した。自らも「柔道人生で最高のパフォーマンスを披露できた」と認める完勝だった。花道としては十分と言っていいだろう。 だが、永瀬はまだ引退を口にしていない。それだけでなく、五輪閉幕の4日後には2部練習を再開。「今後についてはゆっくり考えたい」。言及を避けながら、何か次のモチベーションを探すように稽古に励んでいる。 81キロ級は男子7階級の真ん中。世界で最も競技者が多い激戦区だ。ひと昔前は「日本人は勝てない」とまで言われ、永瀬以外に五輪や世界選手権を制した日本人の現役選手はいない。いわば圧倒的なナンバーワン。自然と周囲の期待が集まり、自らも「まだやれる」という予感があるからこそ、いい意味で悩んでいるのかもしれない。 世界王者がどんな決断をするか。今はその時を待ちたい。