最終戦が寒ければ寒いほどチャンス? 逆転での3度目SFチャンプ目指す野尻智紀、担当エンジニアが明かす“ダウンフォース命”の現状
2024年のスーパーフォーミュラは、11月9日、10日に鈴鹿サーキットで行なわれる第8戦・第9戦でフィナーレを迎える。ランキング3番手につけるTEAM MUGENの野尻智紀は自身3度目となる王座を狙うことになるが、担当エンジニアの一瀬俊浩氏が前回の富士ラウンドで苦戦した要因、そして最終鈴鹿ラウンドの展望を語った。 【リザルト】坪井翔が大きくリード! 2024年スーパーフォーミュラ:ポイントランキング 2021年は7戦3勝、2022年は全10戦で4位以上と、圧倒的な強さと安定感でスーパーフォーミュラを連覇した野尻。2023年も1回の接触リタイアと1回の病欠がありながらも3勝を記録し、最終戦まで僅差のタイトル争いを繰り広げた。しかしながら今シーズンに関しては、ここまで7戦で2勝しているとはいえ、過去3年と比べると苦戦している様子も見受けられる。 特に厳しい戦いを強いられたのが、10月の富士ラウンド。土曜日に第6戦、日曜日に第7戦が行なわれたが、それぞれ6位、7位。共に予選ではトップ3に食い込んだのだが、レースペースに苦しみポジションを落とした。一方でライバルの坪井翔(VANTELIN TEAM TOM'S)は両レースで優勝し、野尻に対して16.5ポイントの差を築いてポイントリーダーとして鈴鹿に乗り込む。 野尻にとってはタイトル争いで痛手となった富士ラウンド。一瀬エンジニアは、予選こそダウンフォースを活かして好タイムを出すことができたものの、決勝では速度域も下がることで相対的なダウンフォース量が下がり、苦しんだと説明した。 曰く、野尻のマシンはサスペンションセッティングで得られる“メカニカルグリップ”を出すのに苦しんでおり、空力によるダウンフォースで得られる“エアログリップ”に頼らざるを得ない状況なのだという。今季からはダンパーが共通化。これまでは進んだダンパー開発を活かして強さを発揮してきたTEAM MUGENにとって、その影響は多かれ少なかれありそうだ。 ワンメイクシャシーのスーパーフォーミュラにおいて、ダウンフォースの稼ぎどころは車高設定。野尻のマシンは足回りを硬くすることで車高を低い位置で安定させ、ダウンフォースを稼いでいるが、一方でロングランになると他車に劣る傾向があると野尻は話していた。また野尻は富士戦の際、自分のマシンは前が開けたクリーンエアの状況でこそパフォーマンスを発揮できると語っていたが、ダウンフォース命のマシンだったからこそ、先行車からの乱流でダウンフォースを失ってしまうとより大きな影響を受けてしまう……ということだったのだろう。 「坪井選手に結構後れをとっているという認識がある中で、フリー走行では予選に向けてある程度まとめられたという感覚がありましたが、『ロング(ラン)になったら絶対ヤバいよね』という感覚もありました」と一瀬エンジニアは言う。 「ショートランとロングランではセットアップも変わりますし、燃料搭載量も違うのでラップタイムも違い、クルマの雰囲気(フィーリング)も変わります。ただ嫌なポイントはショートランの段階で出ていて、ロングランでタイヤのグリップが下がったら絶対ヤバいと言っていたんです。それで走ってみたら、案の定ネガティブな部分しか出なくて……」 「車速が10km/h以上違えばダウンフォース量もそれに応じて増えていくので、ラップタイムの速い予選では(ダウンフォースでマシンを)押し付けてなんとか走れるという感じですが、車速が下がってしまうとダウンフォースが全然出なくなるので……言ってしまえばメカニカルグリップが出ていない状態です」 ダウンフォースに依存するマシンにとっては、車速だけではなく気候も重要となる。気温が低いコンディションでは空気密度が高くなる関係でダウンフォース量が増えるのだが、逆に暑くなるとその逆で、相対的なダウンフォース量が減ってしまうのだ。一瀬エンジニアは、今季野尻が速さを見せられたのは3月初旬の開幕戦鈴鹿だけであり、それは極寒のコンディションに助けられた部分もあると説明した。 「16号車(野尻)に関しては、僕の中で速かった印象があるのは開幕戦だけです」 「ラウンド2(オートポリス)も速くなかったし、ラウンド3(SUGO)はなんとか戻ってこれましたが、富士は全然ダメ。もてぎもそこそこではありましたけど、トップではなかったですね」 「夏場というか、ダウンフォースがないところはやっぱり苦手なんだなという感じです。SUGOで悪くなかった(※予選でポールポジション、決勝は雨で途中終了となり優勝)理由は、1周の距離が短くタイヤの熱だれもしないから。夏場でもなんとか1周はタイヤのグリップで誤魔化せたからです。一方でもてぎやオートポリスだと全然ダメで。富士はさらにダウンフォースを削って走るので特にダメでした」 「この前の富士戦もそんなに寒くなく、路面温度は30度くらいありましたが、あのくらいでも僕らからすると全然無理みたいな感じで。開幕戦くらいのコンディションなら、いけるかなと(笑)」 3月の開幕戦鈴鹿は、週末を通して気温が10℃前後という真冬並みの寒さ。日曜午後の決勝レースでも、気温12℃、路面温度22℃だった。今週末の鈴鹿戦も気温は20℃を下回りそうだが、開幕戦並みの寒さになるかは疑問符がつく。そのため一瀬エンジニアとしてもややネガティブな予想をしているようだが、「僕らも諦めてはいませんし、なんとか立て直そうと必死にやっています」と語った。
戎井健一郎
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