【Z400FX vs ZEPHYRχ】新旧カワサキ400のヒットモデルを比較試乗
高性能を誇りながらも、大らかさを感じさせるZ400FX
10年の時を隔て、ともに国内の中型400ccクラスで大ヒットしたカワサキのZ400FXとゼファー。高性能からゆったり常用性能へと、そのアピールが変化するほどバイクの性能が進化した時代の中で、両車はどんなキャラクターを持っていたのか? そして根底に流れるものは? 2台の試乗を通して検証してみる。 【画像18点】カワサキの大ヒット400、Z400FXとゼファーχをじっくりチェック! Z400FXの試乗車は、千葉県松戸市の中古車専門店からお借りした初期型E1の赤。今ではかなり希少であろうノーマル車だけに、価格は新車当時を上回る75万円(※注・1998年当時)だという。それでも購入するお客さんがいるほど人気は衰えず、同車の中古価格相場は1998年現在、50万~80万円で推移しているとのこと。1998年当時でも20年近く前のマシンだけに、お買い得な(内外とも好調な)タマはかなり数少なくなっている。 ともあれ、個人的にあこがれたマシンへの試乗となれば気分のいいもので、その昔、筆者より少し年上の兄さん方がカッコよく乗っていたのを眺めていた自分を思い出す。そんな1980年代初頭に一瞬タイムスリップさせられるほど、Z400FXのフォルムには、懐かしい上にバイクとしてのソリッドなカッコよさが詰まっている。また、フルノーマルのFXが、カスタムされた個体があふれる今の時代に、逆に新鮮でもある。 ところで、足着き性というものは、1980年前後の時代にはさほど気にされなかったのだろうか。Z400FXの当時のカタログの性能数値欄にシート高という項目はないし、実際足を下ろす部分のシートの縁も角の張った形状になっている。止まっているときより、走行時の座り心地のほうに配慮されているのかもしれず、座面の面積は広い。とは言え、Z400FXのシートはさほど悪い足着き性ではなく、身長173cmだと両足カカトが心持ち浮く程度だ。 また、この時代のバイクにまたがっていつも感じるのは、「あれほど大きく見えたタンクが、意外にスマートだったんだな」ということ。そしてタンクのニーグリップ部にタンクのホールドに配慮したようなエグリは付かない。現代のバイクのタンクは幅広く前後に短く、そしてハンドルは低め。一方で1980年前後のモデルはタンクがスリムで長く、着座位置からグリップまでの遠さを、ハンドルを高くすることで補っている印象がある。 背筋を伸ばした姿勢から自然に手を伸ばした位置にあるハンドルを握り、セルボタンを押してもZ400FXのエンジンはかからない。ギヤがニュートラルの状態でも、クラッチを切らないと始動しない機構が装備されているのだ。そして改めてセルを回すと、オヤジの平和なイビキのようなサウンドがゴーっと目覚める。 同系エンジンを搭載するゼファーとの大きな違いはボア・ストローク比で、Z400FXの52×47mmに対して、ゼファー&ゼファーχは55×42mm。ノーマルマフラーの排気音はおとなしいものだが、メカノイズは気忙しくないほどには存在する。スロットルをあおると、今の水冷マルチほどシャープに回転は上昇しない半面、重厚な印象すら感じさせてきれいに吹け上がる。43ps/9500rpmで当時は高出力高回転型をアピールしていたZ400FXのエンジンは、同系エンジンに大幅に手を加えたゼファーχのそれと比較すると前時代的だ。 一方でゼファーχのエンジンは、同じ空冷4気筒でも4バルブヘッドとなり、ボアを拡大した代わりに5mmのショートストローク化(これは1989年のゼファーから)、カム形状変更、K-TRIC(スロットル開度センサー)付き負圧式キャブレター採用、そして各部のフリクションの低減など、様々なリニューアルを施された。そして最高出力も53ps/11000rpmとなっている。 だが、Z400FXからゼファーχまでの約20年で、各ギヤの変速比から一次減速比に至るまで数値はそのまま。ただし二次減速比は異なり、ゼファーχのファイナルスプロケットの歯数が3T増えている。いわばゼファーχは、Z400FXより高回転まで回る分だけ(レッドゾーンは12500rpm、Z400FXは10000rpm)ローギヤード化されているようだ。 (写真説明) ■1979年4月15日発売のZ400FX初期型のカタログ(上)。 そして1996年3月20日発売のゼファーχ初期型のカタログ(下)。なおゼファーχの試乗車は、足まわりが小変更された 1997年発表の2型である。 (Z400FX写真説明) ■海外向けモデルZ500の国内版スケールダウンモデルがZ400FXだが、単なるボアダウンでなく、ストロークも変更してパワー&トルク特性を見直し、当時のクラス最高出力40ps(=CB400T)を3ps上回った意欲作。高性能を誇ると同時に、ひとクラス上の車格と硬派なスタイリングを具現化した点もFX人気の見逃せない要因。 ■「加速・巡行性能ともに、ひとクラス上の内容を約束します」とアピールしたエンジンは、クロスレシオの6速ミッションでスポーティな走りを実現。サイレントカムチェーン採用でのメカノイズと振動低減や、メンテナンスフリーのオートカムチェーンテンショナー採用をアピール。そのほか、ニュートラルの出しやすいポジティブニュートラルファインダー、ブローバイガス還元のPCV装置採用なども紹介している。 ■1970~1980年代によく見られたパターンのオーソドックスなアナログ式2連メーター。80km/hに達すると赤いランプが点く速度警告灯付きで、メーターの80km/h以上での外周部にも赤帯が入る。これは当時、自動二輪車と軽自動車の最高速度が80km/h上限だったことによるもの。2000年以降より、自動二輪、軽自動車とも最高速度は普通自動車と同様の100km/hに引き上げられた。 ■キャブレターと言えば、ミクニと京浜が2大勢力ながら、1970~1980年代には採用例も多かったTK(テイケイ気化器)製のK21Pキャブレター。スロットルと直結したワイヤーが、ピストンバルブを引っ張って持ち上げる強制開閉型。ボディ後部にはチョークレバーを装備。その後部上方には負圧式燃料コックを装備。 ■今では、シート本体を取り外せるタイプが主流ながら、こうした片側ヒンジ付き横開きタイプのシートも1980年以前は多かった。シート後端のテールカウル内部は、大概けっこう大きな収納スペースが設けられた。 ■前19/後18インチの車輪を持つ車体のハンドリングは、その当時なりの手応えを感じさせるが、セミアップハンドルでコーナー進入のきっかけを与えた後は、素直なリーン特性。これは車格の割に短めなホイールベース(1380mm)のせいもある。