「第二の馬生」で馬術に挑戦中のディアスティマ 甲賀ファームで新たな道「リズム良く走れるようになっている」
懸命に競走馬としてターフを駆け抜けたサラブレッドたち。引退後の「第二の馬生」の一つに乗馬の道がある。滋賀県甲賀市の『甲賀ファーム』では、引退した競走馬を引き受け、乗馬クラブで一般の人々が乗ることができるようにリトレーニングを行ったり、RRC(引退競走馬杯)という競走馬登録されていたサラブレッドが出場できる馬術競技に出走するための練習を行っている。最大50頭を管理することが可能で、そのうちの約40頭がサラブレッド。サードキャリアを過ごす20~30歳の馬もおり、穏やかに余生を暮らしている。 「ここに来る一頭一頭がこれからどういう道に進んでいくのがいいのか、適材適所を見極めることが大切」と話してくださったのはスタッフの田所宏之さん。「お客さんが乗れるようにトレーニングすることもあるし、歩様がきれいだったら馬場技術の調教、飛越能力があったら障害馬術に出られるようにします」と説明してくれました。 これまで時速60~70キロで走っていた競走馬を、乗馬にするということは決して簡単なことではない。「競馬は馬が収縮して伸びる動きをしていますが、乗馬の場合は伸びると速くなって乗りにくくなってしまう。それを、前じゃなくて上に弾むんだよというふうに教えていかないといけません」。 根本的な体の動かし方が違う。それゆえ、競馬で障害レースを走っていた馬が必ずしも障害馬術を上手にこなせるのかと言われたらそうではない。「競馬ではとにかくロスなく飛ばないといけないけど、障害馬術は脚を引っ掛けてバーを落とすと減点になりますからね」と田所さん。そして牡馬の場合は馬っ気を出し、乗り手に危害を与えてしまうことがないように去勢はマストだという。 現在、甲賀ファームでは1頭の引退競走馬が新たに馬術の道に挑戦しようとしている。23年目黒記念で頭差2着に健闘するなど重賞戦線で活躍したディアスティマだ。今年5月に左前脚の屈腱炎で現役を引退してからは、甲賀ファームで暮らしている。青鹿毛の重厚感のある馬体は健在。夏の日差しに照らされてピカピカに輝いていた。 5月に移動してきてから去勢手術を行い、そこから徐々に状態を戻して、6月半ばくらいから乗り始めた。リトレーニングを行っている今村俊輔さんは「歩様がきれいで、バランスもいい。理解力もある」と素質の高さに声を弾ませる。「ディアスティマは今、自分が何をするべきかを理解しだしています。ゆったりときれいな形でリズム良く走れるようになってきています」。来月17日、滋賀県にある水口乗馬クラブで行われる「RRC馬場馬術・近畿地区大会」がデビューの舞台だ。 現役時代のディアスティマを管理していた高野友和調教師は「うれしいことです。走り方を見ても、乗馬としての素質は高い馬だと思う」と優しくほほ笑む。「引退馬については私ももっと責任感を持ち、重要視していくべき問題だと思っています。毎年7000、8000と生まれてくるサラブレッドたち。馬術部出身として引退競走馬たちの活躍の舞台が増え、もっと多くの人たちに乗馬の間口が広がればいいなと思います」。 サラブレッドは進んでいく道を自ら選択することはできない。甲賀ファームの方々が“一頭でも多くの馬が、それぞれに合ったセカンドキャリアを過ごせるように”と奮闘する思いは、生まれてからデビューまで、そして競走馬時代を必死に支えてきた人々の、情熱をつないでいってくれる。(デイリースポーツ・小田穂乃実)