黒い噂が絶えないラオスの中国経済特区を行く
特区の帝王の反論
特区を開発したのは、中国・黒龍江省出身とされる実業家の趙偉(ちょう・い)氏(推定71歳)で、黒い噂が絶えないいわくつきの人物だ。 米財務省は2018年1月 、趙偉氏率いる国際犯罪シンジケートがカジノ経営を隠れ蓑にして、麻薬取引、人身売買、資金洗浄(マネーロンダリング)、野生動物取引などの犯罪行為に及んでいるとして、制裁を発動した。 財務省は当時、趙偉氏が経営するカジノがヘロイン、覚醒剤の一種であるメタンフェタミン、その他麻薬類の保管、流通を支援しており、隣接するミャンマーで麻薬取引に関与しているとされる「ワ州連合軍」との関連性を指摘している。 当の趙偉氏はしばしばメディアの取材にも応じており、犯罪行為への関与を否定している。特区管理委員会の主席を務める趙偉氏は今月、中国の動画投稿サイトに掲載されたインタビューを通じ、特区に注がれる疑念に反論した。 「ゴールデントライアングルというと、(臓器売買で)腎臓を取られるだとか何とか言われているが、この地は平和でそういうことはない」「現在も一部薬物が出回っているが、観光業を薬物経済に取って代わる存在に育て上げたい」 今回の特区訪問は危険を冒さず、終始一般観光客として振る舞ったため、そうした犯罪行為の手がかりとなるような物証を目にすることはなかった。しかし、隣接するタイや中国などで特区を介したとみられる麻薬類の密輸が相次いで摘発されていることは事実だ。
電信詐欺の闇、掛け子の証言
最近新たに問題視されているのが、中国人を中心とする犯罪組織が東南アジア各地を拠点として展開する電話やインターネットを使った電信詐欺だ。 電信詐欺そのものも問題だが、旅行中に拉致されたり、言葉巧みに誘い出されたりした人たちが監禁状態で「掛け子」として強制的に働かされている実態が脱出者によって明らかになることも少なくない。監禁被害者は中国人だけでなく、台湾や東南アジア各地にも点在し、社会問題化して久しい。 かつてはカンボジアのシアヌークビルなどが詐欺集団の一大拠点とされたが、取り締まりが強化されたため、ラオスのゴールデントライアングル経済特区や、クーデター後情勢が流動化しているミャンマーの国境地帯などに活動がシフトしているとされる。 中国の公式メディアで報じられた一例を紹介しよう。昨年7月に特区から救出された四川省の男性(36)は、タイ・チェンライに開業した観光客相手の中国料理店で働けば、月収3万元(約62万円)になるという誘いを受けた。しかし、現地に向かうと、特区内に連れ去られ、旅券も携帯電話も没収された。そして、狭い部屋に6~8人で押し込められ、電信詐欺に従事させられたという。 男性は取材に対し、「仕事は翻訳アプリとSNSを使い、チャットで知り合った相手に機を見計らって架空の電子商取引を持ちかけることだった」と話した。ターゲットは主に中東や東南アジアに住む人々だったという。 男性は「毎日12時間、無給で働かされた。『業績』が上がらないと体罰を受けた。半年『業績』を上げられなければ、他の詐欺拠点に売り飛ばされる」と証言した。 事実、筆者が特区内を歩き回ると、市街地の北側に屏風のような集合住宅が何棟も立ち並んでおり、部屋ごとに大量の洗濯物が干されていた。そこは特区で働くミャンマー人やラオス人の宿舎であるかもしれないし、もしかするとこの建物のどこかで電信詐欺が行われているのかもしれない。 中国政府も事態を放置しているわけではない。中国のSNSを検索すると、中国各地の公安局がラオス国内に潜伏する犯罪容疑者に対する懸賞付きの指名手配を行っている。 中国公安省は2月28日、ラオス政府と共同で1月にラオス国内7カ所の電信詐欺拠点を急襲するなどして、容疑者268人を検挙し、全員の身柄が中国側に引き渡されたと発表したが、「氷山の一角」との疑いを拭い去ることはできない。 日本の外務省は「ボケオ県の経済特別区」を名指しし、「高額な報酬等の好条件を提示してラオスに渡航させた後、実際には自由を拘束し違法活動に従事させるという、外国人を被害者とする求人詐欺が多発している」として注意を喚起している。