「誰かの人生変える」落語界の〝出る杭〟が挑む 師匠・立川談笑が短くも端的な吉笑評 CD「立川吉笑落語傑作選」
【渡邉寧久の得するエンタメ見聞録】 テレビに接続したDVDプレーヤーでCDを再生する。モニターは真っ黒のままだが、CDから流れる声が場面場面を浮かび上がらせる。 落語家の立川吉笑(40)が今月、CD「立川吉笑落語傑作選」(来福レーベル)をリリースした。ライナーノーツに、師匠・立川談笑(59)の文章が掲載されている。その中に「吉笑は、出る杭だ。」の一文。弟子を育て見守って来た師匠の、短くも端的な吉笑評だ。 多くを仕掛けてきた。アナウンスの実況に関する講義を聞き即興で落語を作ったり、50週連続独演会を開催したり、音楽イベントやバスケットボールBリーグで開口一番の落語をしゃべったり、月刊文芸誌「文学界」に小説を寄稿したり、著書「現在落語論」(毎日新聞出版)を出版したり。一連の活動の真ん真ん中には自ら創作する落語があり、自作の作品群が各賞で認められてきた、という実績がある。 CDの1席目を飾る「ぷるぷる」は、2022年度NHK新人落語大賞の受賞作で、本人はライナーノーツに「一席だけ自分の落語を聴いてもらえるならこのネタを選ぶ現時点での代表作」と記している。この噺を生で聞いたのは、東京は神田連雀亭のワンコイン寄席だった。すさまじい発想を見事にまとめ上げていることに前のめりになった。 これまでこしらえたのは120席ほどで「その中にも1軍があって、スタメンを張れるのは10席から15席ぐらいですかね」と本人。CDには「ぷるぷる」の他、最終候補14席から厳選した「ぞおん」「くじ悲喜」「一人相撲」「猫の恩返しすぎ」「床女坊」を収録した。どれも完成度が高い。 来年6月に真打ちに昇進することが決定しているため、「自分のことを知ってもらうタイミング。名刺代わりになれば」という思いが、ソロCD制作に結びついた。 2008年に初めて落語をちゃんと聞いたという吉笑。「(立川)志の輔師匠のCDを買って聞いたら、こんなに面白いんだ! と衝撃を受けた」と振り返り、その2年後の10年11月には談笑の弟子になり、人生の路線変更に踏み切った。 「誰かにとって人生を変える1枚になればうれしいな、と考えたりします」と、これからの落語ファンに届くことを願う。 (演芸評論家・エンタメライター)
■渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう) 新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクを経て演芸評論家・エンタメライターに。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。