「国境通信」野良犬を拾って育てる避難民 川のむこうはミャンマー~軍と戦い続ける人々の記録#2
2024年3月にこれまで務めていた放送局を退職した私は、タイ北西部のミャンマー国境地帯に拠点を置き、軍政を倒して民主的なミャンマーの実現をめざす民衆とともに、活動をスタートさせた。そのひとつが農業を通した自立支援だ。 【写真で見る】通りでアインに拾われた子犬 農園のリーダーであるアイン(仮名)の話をしたい。彼も、軍から追われ家族と国境を越えタイ側に逃れてきた避難民のひとりだ。
仏教と生活が密接しているミャンマーの人々
「車で街に出て大通りを走っていたら、こいつが車道でウロウロしてたんだ。だから車を停めて、ドアを開けてこう、よいしょと拾い上げて、そのまま連れて帰ってきたんだよ」 アインは身振り手振りで説明すると、にっこり笑って子犬の頭を両手でゴシゴシ撫で回した。自分たちの食糧をどうやって確保するかに頭を悩ませている時に、野良犬を拾って来てしまう感覚に半分は呆れつつも、つられて一緒に微笑んでしまう。仏教と生活が密接しているミャンマーの人々にとっては自然なことなのかもしれない。そういえば、やはり仏教への信仰が深いタイでも、コロナ禍で生活困窮者が溢れている状況の時、街の野良犬はでっぷり太ったままだったなと考えたりする。しかし、この農園で面倒を見ている野良犬は(飼われているからすでに野良犬ではないのだが)、この子犬で4匹目なのだ。来るたびに増えている気がする。
大きな体に無精髭が似合う親分肌 アインの人柄
アインはこの農園のリーダーだ。元々はミャンマーのシャン州でやはり農園を経営していて、サトウキビや飼料用のとうもろこしを栽培・販売して生計を立てていた。クーデター後に、思いをともにする仲間と団体を作り、軍への反発を労働などの社会活動をボイコットすることで示す「市民不服従運動=CivilDisobedienceMovement(以下CDM)」の参加者たちに資金援助を続けてきた。これが軍の目に触れて追われる身となり、2022年3月に家族と共に国境を越えタイ側のこの街に逃れてきた。大きな体に無精髭が似合う親分肌だが、豪快な雰囲気でありながら、つぶらな瞳と優しい笑顔の持ち主でもある。 私が彼と初めて出会ったのは、2024年2月。すでにこの地に拠点を移して本格的に活動を始めることを決めていた私は、好感を持った彼に「4月になったら一緒にやろう」とメッセージを送り続けていたのだ。