<自由奪われ低迷する香港経済>中国・深圳へ流出する消費、浮き上がる香港人のジレンマ
政治的には支持せずとも「消費」はする
香港人は、自らの生活を厳しくした一つの要因となっている中国本土へ消費をしに行っている形だ。国安法に加え、最近ではそれを補完する香港国家安全条例が施行され、香港人は政治的な自由がほぼなくなり、中国のことについて表立っては何も言わなくなった。しかし、19年の逃亡犯条例改正案に関連して主催者発表で100万人や200万人のデモを起こした民主化を求める政治的信条が大きく変わったわけではない。イデオロギーを支持していなくても、経済活動には与する状態と言える。 香港の歴史は、清朝、英国、日本、英国、中国と統治者が頻繁に変わってきた。その中にはアヘン戦争や第1次、第2次世界大戦も含まれており、彼らの最優先事項は生き延びることにある。これがDNAに組み込まれており、彼らは超がつく現実主義者だ。
筆者の知り合いは「この前、家族3人で中華料理を深圳で食べてきました。香港と比較すると3~4割安かったです。交通費を含めても安い。家族持ちとしては大きな違いだよね」と自らの財布が第一だ。 また、ある知人は自分が働く香港の会社が深圳に支店を開設したため、深圳に高頻度で出張にいかなければならなくなった。今の中国は電子マネーが発達し、現金どころかクレジットカードすら受け付けないところも増えている。「中国本土の電子マネーのサービスを利用しなければ買い物どころか交通機関に気軽に乗ることもできない。中国本土でまず銀行口座を開かないといけなくなりました。諸手続きが面倒で口座開設まで何度も銀行に通ったよ」と苦笑いする。口座開設後は買い物を楽しんでいるとも話していた。 今では、中国本土の決済サービスAlipayの香港版がリリースされており、中国本土でも利用できるようになっている。支払の心配がなくなったことも北上を加速させている。 香港と深圳はイデオロギーが異なる都市だとしても、物価が安く自分の生活が良くなるのであれば深圳で消費するのだ。口座を作った知人は「政治的なことはあるけど、実際、深圳の物価は安いからね。生活もあるし」と淡々と語る。 日本人には理解できないかもしれないが、香港流の本音と建て前の使い分けることで生き延びてきた彼らのやり方である。