「漁業に女性が進出しても、海の神様は嫉妬しない」生かし切れていなかった女性の力、北欧のジェンダー先進国が示す希望
▽「漁業に必要なのは多様な視点」 漁業が抱える課題の一つが、女性の少なさと言える。農林水産省が沿海地区の漁協を対象にした調査では、全国の漁協役員に占める女性の割合は2021年度でわずか約0・5%。全国848漁協の役員計8346人のうち、女性は21県に計41人で、19都道府県には1人もいないという結果になった。 都道府県別で見てみると、女性役員が最も多いのは広島と熊本の5人。続く福井、徳島、鹿児島が4人、岩手など3県が2人―などだった。熊本県は県の男女共同参画計画に基づき、県内の漁協に対し女性リーダーの育成や積極的な女性登用を働きかけているという。地形が入り組む広島県では漁協の数が多く、役員総数が多いという事情はあるが、アサリを専門とする浜毛保漁協(廿日市市)では役員6人のうち2人が女性だ。 福井県の雄島漁協(坂井市)は組合員の約半数が海女で役員10人中4人が女性。全5地区のうち4地区から女性を1人ずつ選んでいるという。徳島県で女性役員がいたのは比較的小規模な漁協で、正組合員の女性の割合も2割以上だった。鹿児島県では、水産会社の女性役員が監事に就いている漁協があった。
漁業とジェンダーに詳しい東海大の李銀姫准教授は、女性が少ない理由について、重労働であることに加え「海の神様は女性で、女性が船に乗ると神様が嫉妬する」という言い伝えが各地にあるといった文化的背景を説明している。船や漁協に女性用トイレがない、女性に適した漁具の開発がないなど、環境が整っていないところもあるという。 ただ、高齢化や過疎化は深刻だ。李准教授が指摘するのは、漁業に多用な視点が入ることの重要性だ。 「漁村の景観や食文化などの資源も活用して新たななりわい『海業(うみぎょう)』をつくり、地域を活性化させる必要がある。そのためにも多様な視点は重要で、女性や若い人たちが入りやすくすることは、漁業の持続性につながる」 ▽インタビュー「女性を起用できないのは大きな損失」 「世界で最もジェンダー平等な国」と言われるアイスランドは、日本と同じく海に囲まれ、漁業が盛んだ。女性たちも活躍しているという。同国の元女性漁業協会会長で、現在は水産会社アイスランディックジャパンのマーケティング部長のアグネス・グヅムンツドッティルさん(33)に、最後に話を聞いた。