若年性認知症になっても「働きたい」 就労や地域貢献ができる場が広がる…相談窓口も
認知症は高齢者だけではなく、65歳未満の働き盛りの世代でも発症し、休職や退職をせざるを得ないケースが多い。「認知症になっても働き続けたい」「誰かの役に立ちたい」――。若年性認知症の人の思いを踏まえ、症状の進行や得意なことに合わせて就労や地域貢献ができる場が徐々に広がっている。（田中文香） 【漫画】小5で始まった介護 母は48歳で認知症に
職場のサポート
東京都内の会社員の男性（53）は1年前、アルツハイマー型認知症と診断された。社内研修の日程を忘れて遅刻したり、リモート会議のためのパソコン操作がうまくできなかったりして、上司に受診を勧められたのがきっかけだ。 上司らと相談し、車を業務で運転するのはやめた。複雑な段取りが必要な業務は難しいため、備品の片付けや整理など、できる仕事に変えてもらった。次に何をすればいいか分からなくなった時には、後輩が教えてくれるという。 男性の妻（51）は「職場のサポートがあって助かっているが、症状が進んでも働けたり、通えたりする場を今から考えておきたい」と話す。
全国に3万5700人
東京都健康長寿医療センターが2020年に公表した調査によると、若年性認知症の人は全国で3万5700人（18年時点）と推計された。本人や家族への調査では、症状に気づいた時の平均年齢は54・4歳で、6割の人は発症時点で就労していたが、こうした人のうち7割は調査時点で退職していた。傷病手当金や障害年金などが暮らしの支えになるものの、体力があって身体的な介助の必要性も低いため、「まだまだ働きたい」という人は多い。
就労支援事業所
選択肢の一つが、障害者向けの就労支援事業所だ。 「幼い頃から物作りや手を動かすことが好き。今の自分にとってちょうどいい仕事が選べてありがたい」。川崎市の就労支援事業所「マイWay サードプレイス」で、高生加（たかおか）英樹さん（53）が焙煎（ばいせん）機を手際よく回し、コーヒー豆をあぶっていた。豆をひいてパックに詰め、認知症の啓発イベントなどで販売している。 もともと大手メーカーで家電のデザイナーとして働いていた。同僚と自分の机を間違えて資料を持っていくなど、異変に気づいた上司の助言で受診し、昨年、アルツハイマー型認知症と診断された。 今春から休職し、同事業所に週5日通い、野菜の栽培やネットショップの商品の梱包（こんぽう）代行なども担う。工賃は月1万円ほどになる。 9月の「認知症月間」に地元で開かれるイベントに携わる。コーヒーのパッケージのデザインも任された。文字を書くのが難しくなり、「苦しいし、情けない」と思うこともあるが、「自分だからこそできることを見つけ、人の役に立ちたい」と話す。
