「シートベルトがはまらない」調べて見つかったものは…「故障かな?」と思ったらトヨタの整備士がまずやること
■故障を見つけ、直してから最後にやること 杉田は「異音は難しいです」と言った。 「異音っていうのはお客さま次第です。たとえば、多治見の走行確認路にはマンホールがある道路を作ってあります。マンホールに乗り上げた時、車内で異音がしたというお客さまがいました。 マンホールに乗り上げると路面が変わるわけですから、タイヤから、かすかな異音はします。そのお客さまは『前に乗っていた車の時はここまで大きな音ではなかった』とおっしゃる。そうすると、これはもう直さないといけない。タイヤが悪いのか、それとも車体がいけないのか。そういったところまでを追究するのが僕たちの仕事です」 品質保証部、サービス部では顧客からの故障連絡、顧客からの声に基づいて、故障した箇所を見つけ、それを直す。販売店では見つけられなかった故障を顕在化して販売店に説明する。そして、直した後、真摯に頭を下げて、「すみませんでした」と謝る。仕事をして、故障を直して、そして、頭を下げる。毎日、必ず謝る。人に謝る仕事をしている。 だが、モチベーションは落ちない。松本は「はい、そうです」とうなずいた。 「僕らの仕事は謝らなきゃいけない仕事です。ある時、上司から言われました。 『松本、俺たちの仕事はトヨタを代表して、お客さまに謝る仕事だ。誇りを持たなきゃいけない』。以来、ずっと僕はトヨタを代表して頭を下げています」 ■「お客さま」とは、大切な後工程である その話を聞いていた杉田は「私もそうです」と言った後、「TPSを痛感しています」と続けた。 「専門部でトヨタ生産方式を習いました。ジャスト・イン・タイム、自働化、カイゼン、ムダ、ムリ、ムラ……。TPSは自分の仕事をカイゼンすることだとなんとなく理解していました。 しかし、品質保証部、サービス部に来ると、後工程のために仕事をする意味がよくわかります。TPSでは後工程のことを考えて生産します。後工程を大切にします。後工程のために仕事をしています。 そして、僕にとってお客さまとは大切な後工程なんです。いちばん意識するのはお客さまです。 お客さまから来た故障連絡を早く解決しなければいけない。故障は少しでも早く直さなければならない。そして、今、目の前で直している車と同じ車種の車が何台、何十台とあることを考えると、少しでも早く原因を追究しなければならない。もし、今出ている不具合が他の車に発生したら、大変なことになるからです。 僕らの仕事でもっとも大切なのはここです。それは僕だけではなく、他のサービスマン、販売店のサービスマンもわかっていることだと思います」 松本、杉田が働く部署はトヨタのなかでもっとも顧客に近い最前線だ。工業学園を卒業して以来、彼らは最前線で頭を下げ続けている。最先端現場とはEV、自動運転だけではない。顧客にいちばん近い現場が最先端現場だ。そして、謙虚に頭を下げることが必要とされる現場でもある。 ---------- 野地 秩嘉(のじ・つねよし) ノンフィクション作家 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。 ----------
ノンフィクション作家 野地 秩嘉