「バリスタ世界一」粕谷哲さんに聞く/フィロコフィア プラッツ習志野店
【&M連載】口福のコーヒー
「口福のコーヒー」の連載が始まりました! 最旬のコーヒービーンズ情報やトレンドのスペシャルティコーヒー事情、巷(ちまた)で話題のカフェや地域に根づく老舗カフェ、自宅でおいしく淹(い)れる方法などなど、コーヒーにまつわるさまざまな情報をドーンとお届けします。NO COFFEE NO LIFE! 日常を幸せに彩ってくれる、そんな口福のコーヒーで、ぜひ素敵な時間を。
「特別なコーヒー体験を届けたい」
記念すべき第一回は、“あの”粕谷哲さんに話を聞いた。ずっと気になっていた「フィロコフィア プラッツ習志野店」にも行ってきた。粕谷さんと言えば、2016年にワールド・ブリュワーズ・カップで、アジア人初の世界チャンピオンになった人。ひと言でいうとブラックコーヒーのおいしい淹れ方を競う大会なのだが、まず日本大会でチャンピオンにならないと世界大会には出場できない。その難関を突破して、36カ国が参加した世界大会でもチャンピオンに選ばれた、とにかくコーヒー界ではみんなが憧れるすごい人なのだ。現在は、コーヒー豆の輸入・焙煎(ばいせん)・販売などを行う会社「フィロコフィア」を立ち上げ、プラッツ習志野店を含むカフェ3店舗を経営し、その他多方面で活躍している。 少々身構えてインタビューに臨んだが、やっぱりこの人すごい!と素直に感動させてくれた。コーヒーの未来のことを真剣に考えているし、とがってなくて柔軟で、素敵なバリスタだった。
粕谷哲さんインタビュー
――フィロコフィアのコンセプトは? おいしいコーヒーを届ける。ではなくて、あらゆるところに特別なコーヒー体験を届けることをミッションにしています。スペシャルティコーヒーを扱っていますが、強くはうたわない。スペシャルティコーヒーは農園側の努力の結果であって、その素材を使ってコーヒーを届けるだけでは、ただの橋渡し。いかにスペシャルなコーヒーエクスペリエンスを届けるか。コーヒー単体だけではなく、それにまつわるさまざまな体験をどう届けるかをいつも考えています。 ――コーヒーは粕谷さんにとってどんな存在ですか? 簡単な言葉でいうと、すごくいい存在(笑)。自分を表現するツールでもあるし、自分と他者をつなげるツールでもある。自分の気持ちを知るツールという向き合い方もある。コーヒーに出合ったのは、病気をしたことがきっかけですが、それによって新たな人生に進めたので、そういう意味でもコーヒーにすごく感謝しているし、自分にとっては恩人。それを自分ひとりが感謝しているだけじゃなくて、その価値を世の中に伝えていきたい。コーヒーの良さをみんなに知ってもらって、みんなにとってもそういう存在になったらいいと思う。コーヒーを通して、世界をよりよくしていきたい。 ――病気で入院した時にコーヒーに目覚め、異業種からコーヒー業界に転職。2013年にバリスタになり、2016年に世界チャンピオンというのは、かなり短期間のように思いますが、持って生まれたセンスなのか努力の成果なのか。。 それは努力ですね。でも本当に運がよかった。チームや周りのサポートに恵まれました。努力は自分だけの問題ですが、正しい方向に努力できる環境が整っていたのがすごくラッキー。ありがたかったです。 ――スペシャルティコーヒーこそがすばらしいという考えはないのですか。 まったくないですね。コーヒーはコーヒーなので。だからコンビニのコーヒーの仕事もやります。 ――コーヒーの良さを伝えるには、おいしさの追求も重要だと思いますが。 常に自分自身が世界の最先端に触れるようにしています。これについては、今の日本ではどの会社もやれていないことだと思います。世界大会で優勝してからも、毎年どこかの国のコーチとして大会に参加しています。バックヤードに入って、優勝者のコーヒーを飲み、どういう意図でその淹れ方をするのか、どういう味を感じているのか、彼らに聞いてみる。またジャッジとも話してみたり。自分自身はよくも悪くも世界一だとは思っていない。常に世界一は変わり続けているわけだから、その情報を取り続ける努力をしている。それができているのは、今の日本には僕しかいない。だからフィロコフィアのコーヒーはおいしいと自信をもって言えます。 ――粕谷さんが考えるおいしいコーヒーとは? 僕個人の嗜好(しこう)でいうと、究極のドリンクは水だと思うんですよね。水のように飲めるけど、恍惚(こうこつ)感のあるフレーバーが感じられて、甘さの余韻で終わっていく。そんなコーヒーがあれば理想的だと思う。だからこそ透明感と甘い余韻を常に重要視しています。もう一口飲みたい、もう一杯飲みたいと思えるかどうか。それを言語化すると、最初に言ったような液体になるんじゃないかと思います。 ――シグネチャーTOMODACHIシリーズについて 自分のオリジナルのコーヒーを作りたいと思ったのが始まり。親しくしている農園に協力してもらって始めたから、その感謝を込めたネーミングにしています。台湾の知人の会社にも協力してもらって、世界一うまいコーヒーにしよう!と言いながら作っています。今はエクアドル、エチオピア、コスタリカの3カ国の豆で展開しています。 ――フィロコフィアの今後について 今は、焙煎はヘッドロースターに任せて、焼けたものをみんなで試飲して味わいを決定している。すべてチームで行う。自分は早く会社を大きくしたいと思っています。利益や売り上げの金額も、もちろん会社にとって大切なことですが、自分が一番重要視するのは生豆(なままめ)の購入量。多ければそれだけ生産者に還元できます。いかに購入量を増やしていくか、どうしたら生産地にお金を回していけるかを考えると、会社を大きくする必要がある。そのためには一人より、チームで頑張ったほうが、早く達成できますから。 ――簡単においしいコーヒーを淹れられる「4対6」のメソッドについて教えてください 総湯量の最初の40%で味わいを調整し、残りの60%で濃度を調整する抽出方法で、メソッドと豆選びを間違えなければ、自宅でもおいしいコーヒーを飲むことができます。必要な道具は、ドリッパー、ペーパーフィルター、サーバー、スケール、ケトル。グラインダーもあるといいですが、それなりの物が購入できない場合は、お店で挽(ひ)いてもらう方が安定しています。メソッド用の粉は粗挽きが基本。濃くしたければ細く挽き、薄くしたければ粗く挽く。水は、浄水器さえあれば水道水でも十分です。 (※ワールド・ブリュワーズ・カップ2016でも披露され、トップバリスタをはじめ、世界中のコーヒー愛好家たちからも支持されている4:6メソッドの詳細はこちら) ――最後にフィロコフィア プラッツ習志野店の魅力について プラッツ習志野自体が、市民が集う公共施設です。ここに自分たちが入る意味を考えたときに、町に開かれたカフェである必要がありました。コーヒー豆や主なドリンクは他の店舗と同じですが、スムージーやスイーツ、サラダなどメニューを増やしています。 ――「開かれたカフェ」のためにどんな工夫をしていますか。 ファミリー層も多いので、カフェインが苦手な人、妊婦さん、小さな子供連れの人も気軽に入れるように、例えば、グラインダーを2台置いて、カフェインレスにも対応していますし、ベビーカーが入りやすい設計にもしている。そもそもの考えとして、妊娠中だからコーヒー飲めない、ベジタリアンだから入れないといった足かせをなるべく排除して、誰もがコーヒーに触れる機会を提供する店が理想なので、ここはそれを意識したショップです。