【年末年始】帰省したらまず親に確認すべき「相続の話」、相続専門税理士がゼロから解説
高齢になった親に対して、相続の話は切り出しにくい。だが、富裕層の家族たちは、相続準備の一環として高齢になった親へ高級老人ホームへの入居を勧めている。ノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』では、様々な経緯で高級老人ホームに入居した富裕層の晩年の暮らしの実態を徹底取材している。では、高級老人ホームへの入居を勧める以外にやっておくべき相続対策などはあるのだろうか。本稿では、相続問題に詳しいライター・坂田拓也氏に、年末年始の帰省に合わせて親子で絶対に話し合っておくべき相続のポイントについてご寄稿いただいた。(取材・文:坂田拓也、構成:ダイヤモンド社書籍編集局) ● まずは相続税の計算から 中高年の人たちが高齢になった親の元へ帰る年末年始は、相続について話し合ういい機会だ。 相続の話は子供から切り出しにくい。何を話すべきかなどの問題もあるが、新宿総合会計事務所で相続専門チームを率いる税理士の杉江延雄氏はこう説明する。 「まずは、おおよその親の財産を確認して相続税を算出してみることです。実は、相続税の計算を間違える人が意外に多いのです」 80歳の男性Aさんを例にして相続税を算出してみる。Aさんの財産は、自宅の土地・建物の評価額が5000万円、預貯金が5000万円の計1億円。Aさんを被相続人(亡くなる人)として、相続人は妻、長男、長女の3人だ。 国税庁のサイトによると相続税の税率は、遺産の取得金額ごとに以下のようになる。 ・1000万円以下=10% ・1000万円超から3000万円以下=15% ・3000万円超から5000万円以下=20% ・5000万円超から1億円以下=30% ・1億円超から2億円以下=40% ・2億円超から3億円以下=45% ・3億円超から6億円以下=50% ・6億円超=55% これを見て、1億円に税率30%を掛けて「3000万円も払えない!」と慌てる人は意外に多いという。 相続税の計算は複雑だが、基本は知っておくべきだろう。 ● 相続税の“超”基本 まず、財産の全額が課税対象になるわけではなく、3000万円+相続人の数×600万円の基礎控除がある。 Aさんの相続人は妻、長男、長女の3人のため、基礎控除額の合計は3000万円+相続人3人×600万円なので4800万円。 Aさんの財産である1億円から基礎控除額の4800万円を引いて、5200万円が相続税の課税対象額となる。 だが、この5200万円に税率を掛けることも間違いだ。 5200万円を法定通りに分配したと仮定して、被相続人(Aさん)の配偶者である妻は2分の1の2600万円、子供である長男、長女は4分の1ずつの各1300万円。この各々が分配される額に税率を掛けるのだ。 先述した国税庁のサイトでは、相続税の税率は<1000万円超から3000万円以下=15%>とある。さらに、税率を掛けた後に控除できる額が取得金額ごとに定められ、ここでは50万円を引いた額が相続税として課される。このため、それぞれの相続税は以下のとおりだ。 ・妻2600万円×15%‐50万円(控除額)=相続税340万円 ・長男1300万円×15%‐50万円(控除額)=相続税145万円 ・長女1300万円×15%‐50万円(控除額)=相続税145万円 3人の相続税は合計で630万円となる。 相続税は誰が納税してもよく、法定相続割合で負担する必要もない。通常は、実際に各人が受け取った遺産の額に応じて負担する。 財産全体から導くのではなく、相続人各々の税額を計算して足すというところに、ややこしさがある。 「遺産が1億円でも相続税が極端に高くなることはありません。相続税は原則現金で納付することになりますが、このケースではAさんの預貯金5000万円を相続できるため、相続人は納税資金が十分にあることになります。 一方で、遺産のうち不動産の割合が大きく、不動産を売却する予定がなければ納税資金が足りなくなる場合があります。 どのような形で相続するせよ、相続税を算出しておくことで、納税資金があると分かれば安心できるし、納税資金が足りないと分かれば早めに準備できるのではないでしょうか?」(杉江税理士) 高齢になった親に相続の話を切り出すのは難しい。 だが、「相続税がいくらになるか?」を確認しておくことで、無用なトラブルを回避できるのも事実だ。家族が顔を合わせる年末年始は相続の話をし始めるチャンスなのかもしれない。坂田拓也(さかた・たくや) 大分市出身。大学在学中に1992年「サンパウロ新聞」(サンパウロ)、卒業後1997年から2004年「財界展望」編集記者、2008年から2018年まで「週刊文春」記者、現在はフリーランスのライターとしてマネー、経済分野を中心に幅広く執筆を行う。著書に『国税OBだけが知っている失敗しない相続』(文春新書)、取材・構成『日本人の給料』(宝島社新書)などがある。
坂田拓也