重力レンズで歪んだ銀河の像に超新星が出現 ウェッブ宇宙望遠鏡で観測
こちら画像、左は「くじら座」の方向約40億光年先の銀河団「MACS J0138.0-2155」、右はその銀河団による重力レンズ効果を受けて像が歪み分裂して見えている約100億光年先の銀河「MRG-M0138」の像の一つを拡大したものです。 今日の宇宙画像 この画像は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)」の「近赤外線カメラ(NIRCam)」で2023年12月5日に取得した観測データをもとに作成されました。ウェッブ宇宙望遠鏡は人の目で捉えることができない赤外線の波長で主に観測を行うため、公開されている画像の色は取得時に使用されたフィルターに応じて着色されています。 重力レンズとは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球からは像が歪んだり拡大して見えたりする現象です。何百億~何千億もの星々の集まりである銀河が何百~何千と集まった銀河団の質量は途方もなく大きいため、地球から見てたまたま銀河団の向こう側に位置する遠方銀河の像はこのように強く歪むことがあります。ウェッブ宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、MRG-M0138の場合は像が5つに分裂もしています。 注目は拡大像の丸印で示されたところにある2つの小さな光点です。STScIによれば、これはMRG-M0138で発生した超新星爆発の像であり、重力レンズによって2つに分裂して見えているのだといいます。STScIのJustin Pierelさんを筆頭とする研究チームによると、この超新星は白色矮星が関わる「Ia型超新星」であることが確認されています。研究チームは2023年11月17日にウェッブ宇宙望遠鏡で取得されたMRG-M0138の観測データからこの超新星を偶然発見し、「アンコール(Encore)」と名付けました。 実は、MRG-M0138で超新星が見つかったのは今回が初めてではありません。2019年には別の研究チームが、2016年に「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」で取得されたMRG-M0138の観測データから像が3つに分裂した超新星を発見しています。ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた超新星もまたIa型超新星だったとみられており、「レクイエム(Requiem)」と名付けられました。今回ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で見つかったのは同じ銀河でわずか7年後に観測された超新星だったことから「アンコール」というわけです。