北薩トンネル壁面崩壊から1カ月、土砂流入は止まったが天井までほぼ埋まる 現場は掘削中から大量湧水した難所、全国注目の減水新工法も水圧には勝てず? 原因究明と補修法の検討急ぐ
出水市とさつま町にまたがる北薩横断道路の北薩トンネル(4.85キロ)で、大規模な土砂流入が発生して1カ月が過ぎた。流入は止まっているものの、復旧時期は見通せない。鹿児島県は国の専門家にも協力を要請し、原因の究明や補修方法の検討をしている。 【写真】北薩横断道路の通行止めを案内する看板=30日、出水市高尾野
トンネルを管理する県によると、7月25日に出水市側入り口から1.8キロ付近のトンネル内で路面の浮き上がりが見つかり、通行止め。26日に壁面コンクリートが剥がれて水や土砂が流れ込み始めた。今もトンネル断面をほぼふさぐ形で土砂が積もっている。 県北薩地域振興局は、事故後にカメラや測量機器をトンネル内や入り口に取り付け、常時観察。付近を流れる高尾野川でヒ素濃度などの水質調査も毎日実施しており、発生時から農業用水の基準値を下回っている。当初は川で白濁も見られたが、現在は解消しているという。 北薩横断道路のさつま泊野インターチェンジ(IC)と高尾野IC間の約14.5キロは通行止めが続き、近隣住民からは買い物を近場で済ませるようにしているなどの声が上がる。さつま町泊野の市野國治さん(82)は「日常生活に大きな支障はないが、不便さは感じている。早く復旧してほしい」と話す。 現場一帯は花こう岩と四万十層群という異なる地層の境目で、工事中に1時間当たり最大1200トンの湧水が発生。水の通り道となる地層の割れ目にセメントを注入したり、水と反応して固まるウレタン薬剤を入れたりといったトンネル工事としては全国初の手法で減水対策をして完成させた経緯がある。
近畿大学の米田昌弘名誉教授(土木工学)は「新たな工法は学会から賞を受けるなどしており、注目度は高い」と語る。「水圧によってトンネルが崩壊したのは間違いないだろう」とした上で、「似た事例がほとんどなく、理由の特定には時間がかかるのではないか。まずは原因を徹底的に調べ、セメントやウレタン薬剤注入に頼りすぎない補修方法も検討する必要がある」と指摘した。 ◇ 鹿児島県は塩田康一知事が北薩トンネルを31日に視察すると発表した。出水市側入り口付近で40分ほど。土砂流入現場をドローンで撮影した録画映像や、トンネル周辺を流れるヒ素を含む湧水の処理施設の稼働状況も確認する。
南日本新聞 | 鹿児島