【法律相談】「パワハラ・セクハラで追放された上司にたんまりと退職金が…」減額させることはできないか?弁護士が解説
労働基準法には退職金に関する取り決めがなく、企業側が自由に金額等を決められる。では、従業員が上司の退職金減額を求めることも可能なのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【質問】 パワハラやセクハラばかりの上司が辞職します。彼は経営者一族の親戚なのですが、ガバナンスを重視する会社の方針もあり、追放の形で辞めることになったのです。でも、問題は退職金。ひどい上司なのに相当な額が支払われるそうで、社員は納得していません。彼の退職金を減額させる方法はありませんか。 【回答】 退職金の原資は会社のお金で、その資金の使途を決めるのは経営者です。なので従業員は介入できません。 違法な支払いがあったり、会社に不利益な支出を当該上司が行なった場合は、社内の内部通報窓口に通報し、適切な処置を求めることも考えられますが、経営者一族の依怙贔屓も否定できず、状況によっては相手にされないでしょう。 また、規定以上の退職金支払いは、会社資産の不当な減少であり、取締役の善管注意義務に違反しますが、これも会社の持ち主である株主が揃って同意していれば、問題にはなりません。もし、従業員が持株会などで株主になっていれば、株主として取締役に対し、当該上司に対する支払い退職金の過剰分を注意義務違反による損害とし、会社に返すよう求める手続きを取れます。ただ、退職金規定等では基準の額に、功労による増額を認める場合が通常で、功労判定には取締役の裁量の範囲が大きいため、違法とされるのはよほどのこと。つまり、従業員が当該上司の退職金減額や不支給を正面切って要求するのは難しいのです。
しかし、この事態を利用できる方法があります。上司の退職金の額が規定以上なら、会社には人件費に充てられる余裕資金があることになり、支給規定の見直しを経営者に要求する根拠にできます。 他にも、退職金の受け取りを憤るほどのパワハラやセクハラを当該上司から受けた従業員がいるのであれば、相当悪質なパワハラ等がされたのだと推測できます。 ハラスメント行為は、不法行為になる場合があり、そこで当該上司に対し、ハラスメントで受けた精神的苦痛に基づく慰謝料請求を行なうのも考えられます。 結果、多くの被害者がいれば、金額は大きくなりますし、協力して退職金の相当部分を召しあげることも検討の価値があります。 【プロフィール】 竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。 ※週刊ポスト2024年11月22日号