進化を続ける真・4回転時代の平昌五輪を勝つ条件とは?
来年の韓国・平昌五輪の会場で開催されたフィギュアスケートの四大陸選手権の男子シングルで優勝したのは、17歳の新星、ネイサン・チェン(米国)だった。ショートでミスをして3位だった羽生結弦(22、ANA)はフリーで、4度の4回転ジャンプを成功させたが、計303.71点で2位。4種類5度の4回転ジャンプを飛んだ計307.46点のチェンにわずかに及ばなかった。 またショートで2位だった宇野昌磨(19、中京大)は、自身初の4回転ループを成功させて3位に入った。 トップ3が4回転ジャンプを4本以上着氷したのは、ISUの公認試合で初めて。進化が止まらない羽生の言う「真・4回転時代」を勝ち抜き、来年の平昌五輪で表彰台の頂点に立つスケーターは誰になるのだろうか。そして、その条件はどうなるのか。 羽生は、ショートに続けてフリーでも4回転サルコウ+3回転トーのコンビネーションジャンプに失敗した。最初の4回転がタイミングが合わずに2回転に終わったのである。それでも、ここからが羽生の絶対王者、所以の強さだった。 「挑戦的にやった」と、急遽、プログラムを変更した。 最終滑走のネイサン・チェンが4種類5本の4回転ジャンプを入れてくるのはわかっていた。 「4回転4本」をクリアするため、後半のトリプルアクセル+シングルループ+3回転サルコーの予定だったコンビネーションを4回転トー+2回転トーのコンビネーションに変えたのだ。これを綺麗に着氷した羽生は、最後の3回転ルッツをトリプルアクセルに変え、減点対象となるジャンプの重複が起こらないように考えながら、高度なプログラム変更をやり遂げたのである。それだけに試合後の会見で語った「正直、勝ちたかったなあ」も、「限界まで挑戦するのが好きだから、一番楽しい銀メダルだった」の相反する感情は理解できる。 元全日本2位で現在後身の育成活動をしている中庭健介氏も、羽生の進化続ける対応力を評価した。 「鳥肌が立つほど高レベルでの戦いになった。選手は、練習からミスをした後のリカバリープログラムに関しては、頭に置いているものだが、羽生選手の4回転を4本組み入れるプログラム変更は、常識では考えられないほど凄いこと。気持ちの焦りからか、上半身が先に回りすぎることを止められずに、4回転サルコウのコンビネーションジャンプが、パンクするミスをショート、フリーと重ねたが、失敗の中で生まれた対応力に自信を深めたのではないだろうか」 だが、連覇を狙う平昌五輪の戦いが簡単でないことも同時に明らかになった。ネイサン・チェンという強力なライバルの登場である。中庭氏も、“4回転時代の申し子”の優勝をこう見ている。 「チェン選手は、フリーで4種類5本の4回転を飛び、細かいミスはあったが、いずれも基礎技術点を守りきったのが大きい。ジャンプに加点もつき、この1年で課題だった演技構成の部分も飛躍的に伸びている。羽生、宇野を相手に、この大きな舞台で肉体をコントロールしてみせたメンタルの強さも印象的だった。国際試合でジャッジの一定した評価を得るためには、2年が必要だと言われている。チェン選手は、怪我に苦しんだ時期もあったが、プレ五輪のシーズンに300点を超えるスコアで優勝したことは、五輪に向けてジャッジに確かな印象を与えた。その意味で彼にとって大きな収穫になったと思う」