【中国軍機による領空侵犯の狙い】日本は撃墜できるのか?2度と起こさせないための課題
ただし、自衛隊法は「必要な措置を講じることができる」と規定しているだけで、撃墜についての規定はない。撃墜を含め、領空侵犯機の排除は、自衛隊に武器の使用が認められる「緊急避難」に該当するという解釈もあるが、今回の侵犯後、空自トップの内倉浩昭空幕長は会見で「空中で侵攻を妨げる物理的手段は武器しかない」と述べているように、中国軍機の侵犯事件を機に、政府は現場が混乱したり、躊躇したりしないよう侵犯機に対する武器使用規定を明確にする必要がある。
中国とどう向き合うか
領空侵犯の直後、今の日中関係を象徴する場面があった。それは、中国の習近平国家主席がサリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談したにもかかわらず、5年ぶりに訪中した超党派の日中友好議員連盟が求めた面会には応じなかったことだ。対米重視と言えばそれまでだが、侵犯直後であり、中国政府に対日関係を改善する意思がないことを示したと言える。 世界第2位の経済力を背景に軍事強国化する中国との関係は、2010年以降悪化の一途をたどっている。首相と習主席との首脳会談は19年と22年、そして23年に、それぞれ短い時間行われただけ。日中間には、(1)東京電力福島第1原発の処理水を「核汚染水」と呼び、日本産水産物の輸入を全面停止している問題、(2)尖閣諸島沖で中国公船が領海侵入を繰り返している問題、(3)スパイ行為の疑いで邦人が長期間拘束されている問題――など懸案は山済みのままだ。 今回の訪中団は、17年に安倍晋三首相(当時)の親書を携えて習主席と面会し、日中外交のパイプ役を務めてきた自民党の二階俊博元幹事長が会長を務める同議員連盟ではあったが、昨年の山口那津男公明党代表に続き、面会は実現しなかった。 今後、日中関係を改善させるためには、中国とのパイプ役を果たそうとする次世代の政治家の登場に期待したい。だが同時に、日中間の懸案解決が見通せない時だからこそ、政府は主権と権益を守り抜く姿勢を明確に示さなければならない。
リーダーの資質問われる総裁選
まもなく国のトップを決める自民党総裁選が始まる。総裁候補には過去最多の議員が名乗りを上げているが、「政治とカネ」の問題に集中することなく、極端に悪化し、複雑化している日本周辺の安全保障環境を直視し、各候補者には自分の言葉ではっきりと外交・防衛戦略を語ってもらいたい。 自民党総裁は首相として自衛隊の最高指揮官となる。中国や北朝鮮の威嚇に対し、決断力と胆力はあるか――。今回の総裁選は1億2000万の日本人を守り抜くリーダーとしての資質が問われている。
勝股秀通