ガザ紛争、長期化の要因と停戦のシナリオ…オスロ合意からの「二国家共存」路線を再考するとき
ハマス殲滅は実現困難
混迷化するガザ紛争はどうすれば停戦できるのか。人質の交渉を軸にした休戦はこれからも起こりえますが、停戦に向けてのシナリオは大きく三つあると思います。 一つは、イスラエルが人質の奪還とハマスの殲滅という目標を達成し、納得して兵を引くというものです。これは行き着くところまで行くという悲劇的なシナリオです。 しかし、ハマスの殲滅は不可能だと私は見ています。ハマスという名称は、アラビア語の「イスラム抵抗運動」の頭文字を取ったもので、政党でもなければ組織でもない、運動です。幹部も多く、誰がメンバーなのかを定義することも難しい。 このハマスの組織形態はイスラエルと対峙する中で作られたものです。1987年に「インティファーダ」というパレスチナ人による大蜂起が起きたときにハマスは誕生しました。当時、イスラエルはパレスチナ人の政治組織に対して「鉄拳政策」という、徹底的に幹部やメンバーを叩く対応を取りました。その結果、メンバーが欠けても動ける集団合議制が採用されるようになりました。さらに、ハマスは域外にもメンバーがいて、今はトルコとカタールが拠点になっていると言われています。 したがって、ハマスの殲滅は実現困難と言えますが、ありうるとすれば、82年のレバノン侵攻に近い決着の仕方です。このとき、イスラエルは今回の「ハマスの殲滅」に近い言い方をしています。レバノンを拠点にしていたパレスチナ解放機構(PLO)に対して地上部隊を展開し、首都ベイルートを10週間にわたって包囲したのです。最終的に国際赤十字などの仲介によって、PLOの武装戦闘員をレバノンから追い出しました。この先例があるので、今回もハマスの武装戦闘員をガザから追い出して決着ということはあるかもしれません。
アメリカでの抗議デモの影響
二つ目のシナリオは、イスラエルの軍事行動を外部から止めるというものです。これには、アメリカがイスラエルに今まで以上に圧力をかけることが必要になります。アメリカではイスラエルによるガザ攻撃に反対するデモが盛り上がっていますが、大統領選挙を控えている以上、バイデン政権が機敏に反応するとは思えません。(談) (後略) 鈴木啓之(東京大学中東地域研究センター特任准教授) 〔すずきひろゆき〕 1987年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員PD、同海外特別研究員などを経て、2019年より現職。著書に『蜂起〈インティファーダ〉』(東京大学南原繁記念出版賞)、編著に『パレスチナ/イスラエルの〈いま〉を知るための24章』など。編著の近刊に『ガザ紛争』がある。