「ブリジット・ジョーンズに共感しすぎて俺泣いてるん?」ひとりになりたい海外ロケの身勝手の果て【坂口涼太郎エッセイ】
これからも私は「ひとりぼっち」でいい
「本当に行きたいところにはひとりで行こう。私に巣くう野生のお涼が全てを無に帰してしまうから」そう固く誓い、幸運にも誰も薙ぎ倒さなかったペルーでの3日間を終えて、野生のお涼の手綱を必死の力で引いていた緊張が解けたのか最後の食事でしっかりと食当たりし、帰りの飛行機では24時間のうち12時間はお手洗いにいたのではないかと思うほど何度も席を立ち、残りの12時間はもう50回以上見ている「ブリジット・ジョーンズの日記」を久しぶりに、と言っても1年経ってないかもしれへんけど見たら、ブリジットが今の私と同じ33歳だということに気づき、ブリジットが自宅の部屋でひとり「All By Myself~♪(あたしはひとりぼっち!)」と熱唱する姿はまさに私の悲ロ活を実行している姿以外の何物でもなくて、「一緒やーん! 私ブリジットと全く一緒やーん! えー! いつのまにー! 子供の頃からブリジット見すぎて無意識に寄っていってるやーん! ……あれ? なんかわからへんけど顔濡れてるねんけど。……え? もしかしてこれって涙? 私、いま泣いてるん? 太平洋沖上空でブリジット・ジョーンズに共感しすぎて俺泣いてるん? え、となりに座ってるのテレビ局のスタッフさんでめっちゃ気まずいねんけど。え、でも止まらへん。あ、やばい歌い出しそう。オールバーイマーイセールフ!(あたしはひとりぼっち!)って歌い出しそう。なにこれ、もう歌ってもいいかな? みんな寝てるし。ブリジットと合唱していいかな? せーの! オールバーイマーイセーールフッ!」 目を覚ますとそこは羽田空港で、私は夢を見ていたのであった。というのが小説においてはセオリーですけれども、残念ながらこれはごりごりの現実で、私はしっかり目を覚ましたまま真っ暗な飛行機の中で「ブリジット・ジョーンズの日記」が映る画面の光に煌々と照らされ、暗闇の中でぼんやりと顔を白く浮かび上がらせながら号泣していたのであった。 そんな、華麗なる“オールバイマイセルフ泣き”を実行しながら私はひとつ気がついたことがあって、それはブリジットと違って、私は割とこれからも“ひとりぼっち”でいいなと思っていることだった。ひとりが好きだし、オールバイマイセルフ状態を盛り上げて悲ロ活を満喫するのも至福だし、大切な人を野生のお涼に薙ぎ倒される心配もなく、ひとりで行きたいところに行って、誰にも急かされずにいたいだけいたいところにいられるオールバイマイセルフ人生、それもまた乙ですやんか。寂しくない? 孤独じゃない? と問われても、否、「孤独は人を聡明にさせる」「孤独により人格は磨かれる」「幸福になろうとする者は孤独であれ」「孤独は優れた精神の持ち主の運命である」などなど、極上の先人たちが超ド級の孤独メリットの数々を史実にぶちかましてきたわけで、ほんならどんとこい孤独。ちょっとツラ貸せよひとりぼっち。俺がチャオチュール的な甘い蜜をちゅーちゅー吸わせて、野生のお涼ともども飼い慣らしてやるよ。みんな揃ってお腹丸出しでごろごろ言ってな! というわけで、私はこれをもってブリジット・ジョーンズとシンクロしてオールバイマイセルフ泣きすることを卒業します。ひとりぼっち上等。生けるオールバイマイセルフとして誇りを持って生活して参ります。そやからブリジット、今までほんまにありがとう。そして、グッドバイ。どうかマークとお幸せにね。まあ、2と3でいろいろあるわけなんだけど、どうかそのときのブリジットがいいと思う選択をして、日記を綴り続けてね。来年公開の第4段も楽しみにしてるよ! どうか幸せでいてね! よろしく哀愁だよ! 朦朧としながらお空の上で愛するブリジットにお別れを告げていたら、いつの間にか羽田空港に着いていて、野生のお涼によるペルーでの自分の言動を反省しながら帰宅し、眠りにつけば、両足が同時にこむら返りになり、私は激痛で叫んだのでした。 「オーールバーーイマーーイセーーールフッ!!!」と。 文・スタイリング/坂口涼太郎 撮影/田上浩一 ヘア&メイク/齊藤琴絵 協力/ヒオカ 構成/坂口彩
坂口 涼太郎
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