IT訴訟解説:開発遅延を責められたベンダー社員が体調不良になった事件
メンバーのプロジェクト離脱はユーザー企業の責任か
文中にある言葉は確かに非常に激しいものではあるし、通常の取引では、あまり聞ないものかもしれない。しかしシステム開発の現場ではこれと同じような厳しい叱責は珍しくない。読者の中にもこうした場面に遭遇した、実際に言われた、あるいはつい言ってしまったという方もいるかもしれない。 無論、こうしたユーザー企業の姿勢は褒められたものではない。社会人としての最低限の礼儀に反するし、ベンダーのモチベーションを落とすばかりである。ベンダーにもっと頑張ってほしいと思う気持ちも分かるが、そんなときこそ冷静に淡々とクレームを付けるべきである。激しい言葉にベンダーの生産性を上げる効果はない。 しかし、それはそれとして、こうした言葉を発してベンダーを追い込んだユーザー企業に損害賠償の責任はあるのだろうか。これらの言動がパワーハラスメントに当たるかどうかという問題は別にあるが、この言動がベンダーによるシステム未完成の原因として認められ、ベンダーには責任がないとされるかどうか、さまざまな意見のあるところかもしれない。 ユーザー企業の担当者がベンダーの担当者を追い込み、プロジェクトを離脱させたためにシステムが未完成になったとなれば、やはりユーザー企業が一定の責任を負うべきとの考えもあろう。一方で、ユーザー企業にはそこまでの責任はないとする考えもあるかもしれない。 判決はどうだったのだろうか。続きを見てみよう。 --- 東京地方裁判所 平成19年12月4日判決より(つづき) (ユーザー企業担当者の言動は)度を超えたものとまではいえない。また、Aが病気により本件請負契約の業務から離脱したことについて、その原因は定かではないが、本件請負業務によるストレスが原因になっていたとしても、本件請負業務の作業負担の見通しなど、基本的にはベンダーにおける労務管理上の問題というべきであって、これを原告の責めに帰することもできない。 --- 裁判所はユーザー企業に責任はないと判断した。ベンダーの担当者が苦しんでいるのなら、そしてそれが健康に影響を及ぼすほどであるのなら、メンバーの交代や体制の変更などを行うのはベンダーの労務管理上の責任だとの判断だ。