太宰治も通った老舗喫茶店に新店主 青森・弘前、元タクシー運転手の31歳女性
青森県弘前市の喫茶店「土手の珈琲屋万茶ン」は1929年創業、東北最古の喫茶店と言われる。前店主の退職により休業中だが、新店主を公募。5代目に選ばれた木下郁さん(31)は、アップルパイを紹介する観光タクシーの運転手から転身した。「以前からのお客さんの思い出を大事にしつつ、自分らしく展開できたら」。12月6日に再オープンした。(共同通信=永富絢圭) 近隣の黒石市出身。地元の高校を卒業し、旅館やホテルで働いた。2017年、弘前市のタクシー会社に入社。リンゴ収穫量日本一の青森県で、特に栽培が盛んな弘前市は、アップルパイの名店が多い。店舗を観光案内する「アップルパイタクシー」のドライバーになり、自身の好物を接客に生かすことができた。 新型コロナウイルス禍で苦境を経験した。1日流して、ワンメーターの乗車が2件だけの日もあった。にぎわいを取り戻したいと、交流サイト(SNS)での発信に力を入れるようになった。街並みの写真や、津軽弁を話す動画を投稿するうち、フォロワーは1万人を超えた。
「珈琲の街」とも言われる弘前で、作家の太宰治が旧制弘前高在学時に通ったとされる万茶ン。喫茶店巡りが趣味の木下さんは同店にも通い、コーヒーのメニュー「太宰ブレンド」は「苦みと深いコクがある味が好き」と評する。 万茶ンは昨年12月から休業。新店主公募を知り「喫茶店を拠点に地域の魅力を発信したい」と考えて手を挙げ、30件以上の応募の中から選ばれた。 コロナ禍の影響もあり自己資金は乏しいが、初期費用や仕入れ費用としてクラウドファンディングで寄付を募り、目標額の200万円を達成した。 「太宰ブレンド」のような歴史ある味を守り、SNSでの発信も続ける。休業前は1種類の提供だったアップルパイを、これからは市内の店舗から取り寄せた数種類を出す。自作にも挑戦するつもりで「リンゴの主張がすごいと感じられるようにしたい」と意気込む。