お米を愛する写真家の「はたちメシ」 20歳の自分に伝えたい夢は… 人と食を撮り続けて
40代はずっと東京で暮らしてきた。夫の仕事の都合で東京に来たのが2010年の暮れのこと。生まれ育った地を離れることに不安はなかったろうか。 「出版不況で大阪の媒体も減り出してきた頃で、WEBへの過渡期でもあり。東京で働いてみたいという気持ちはあったので、行くなら今かなと。連載の仕事はすべて後輩に引き継いでもらって、さあ引っ越したと思ったら数か月で東日本大震災が起こりました」 予定していた仕事はなくなり、営業もままならない日々が続く。だけどこれは東京を知る時間にあてようと考えた。 じっくり歩き回って様々なまちを知り、知り合いを増やすことに専念する時間なのだと割り切った。 「今回質問されて気づいたけど、私って悩まないね。高校出て特に夢もなく、就職しようと思ったけどうまくいかず、バイト生活8年続けてたときも深く悩まなかった。いざ東京に来て仕事なくても、悩まない」 だけど写真という仕事で「やってやる」という心だけはあった、と続けた。「やってやる」の響きの強さに襟を正す思いになる。 上京してから数年で着実に仕事を増やし、現在は人と食の撮影依頼が多い。同時に「仕事じゃない撮影も大事にしていきたい」と語る。 「韓国を旅したとき、各地の市場とそこで働くオモニ(お母さん)たちが懐かしかった。私が育った大阪の空気に似ているから。景色や環境はすごい速度で変わってしまうので、次行ったらもう無いかもしれない。誰に頼まれたわけでもないけど、私の役目と思って勝手に撮り続けてるんです」 これからの夢はと聞けば、「そうやって撮りためたものを、50歳までに写真集か展覧会かの形にしたい」と即座に教えてくれた。 若い頃はやりたいことが特になかったのに、今はある。夢もある。 「20歳の自分に伝えたら、『嘘ぉ!』って驚くやろね」と笑いつつ、キヨコさんは残っていた山菜おこわをきれいたいらげて、満足げにまた笑った。 <取材・撮影/白央篤司(はくおう・あつし):フードライター、コラムニスト。「暮らしと食」をテーマに、忙しい現代人のための手軽な食生活のととのえ方、より気楽な調理アプローチに関する記事を制作する。主な著書に『自炊力』(光文社新書)『台所をひらく』(大和書房)『のっけて食べる』(文藝春秋)など。2023年10月25日に『名前のない鍋、きょうの鍋』(光文社)を出版。2024年10月29日、『はじめての胃もたれ』(太田出版)を出版予定>