「小学生の夏休み中に学力差が広がる」原因は? ブラウン大学教授が注目した研究結果
夏休みをダラダラとすごす子ども...学校で習った勉強を忘れてしまうのでは?と心配する親御さんも多いことでしょう。 【データ】「内申点の高い中学生は筆箱が軽い」は本当? 人気講師が教えるデータと実際 かつて行われた「夏休みの学習損失」についての研究では、夏休みが学力にマイナスの影響を与えるというエビデンスも発見されているといいます。では、その影響力はどの程度のものなのでしょうか? 書籍『世界標準の子育て大全』より、ブラウン大学経済学者のエミリー・オスターさんによる考察を紹介します。 ※本稿は、 エミリー・オスター [著], 鹿田 昌美 [翻訳]『ブラウン大学経済学者で二児の母が実証した 世界標準の子育て大全』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。
小学生の夏休みに潜む「学力の低下」
年度末に近づくと、私の子どもの学校の出口には、恐ろしい「夏溶け(詳細は後述)」についてのメッセージが書かれた掲示板が現れる。 「知っていますか? 子どもは夏休み中に読書能力を最大で1学年分のレベルまで失う可能性があります」「夏は読書のためにあります! 読書の予定はありますか?」などなど。 数学も無視できない。すでに幼稚園の頃から夏休みに向けて、1年生の算数の予習を1袋持って帰宅し、全部やって提出したらガムボールをくれるという約束だった(実は、全部やらなくてもガムボールはもらえた)。 なぜこうなったのか? 1980年代と1990年代に「夏の学習損失」を認識するよううながしたのが発端のようだ。この研究を率いたのが、ハリス・クーパーというデューク大学の心理学教授である。この男性は、すべての子どもにとって最悪な悪夢のような存在かもしれない。 宿題は素晴らしいものであり、夏の間も宿題をしなければならないという考えに基づいて(非常に成功した)キャリアを築いてきたのだから。
「夏溶け」を裏付けるエビデンス
1996年の「学力テストの点数に対する夏休みの影響」というタイトルの総説記事で、クーパー教授と共著者たちは、夏の間に学力がどのように進化するかを調査した(1)。そして、「夏溶け」の概念を裏付けるエビデンスを発見した。 生徒たちのテストの点数は、前学年の終了時よりも、新学年の初めのほうが低かったのだ。この傾向は、読解力よりも数学、問題解決指向のスキルよりも計算や綴りなどに当てはまるようだ(つまり、夏の間に九九を忘れるのは簡単だが、考え方そのものを忘れるのは難しい)。 夏休みの学習損失は、一部のグループに比較的大きな影響を与えるため、政策課題となっている。もっと具体的にいえば、低所得世帯の生徒は高所得世帯の生徒と比べて、夏の間の学習損失をしてしまう生徒が多いようなのだ。 1980年代と1990年代の研究論文の中には、低所得世帯の生徒が学校で後れを取る理由を理解する"鍵となる"のが、夏休みであるという可能性に焦点を当てているものまである(2)。 おそらく、ひと夏の学習損失であればそれほど重要ではないが、この不平等を教育課程全体で合計すると、総学習量に大きな差が生じる可能性があるのだ(新型コロナウイルスの大流行の間、子どもが長期間学校に通えなくなったため、この問題はますます顕著となった。まだ直近の出来事なので、ここから知見を得るのは難しい)。 これに関する近年のエビデンスは、以前のデータほど明確ではない。2019年、研究者は340万人の子どものテストのデータ(以前入手できたサンプルよりもはるかに規模が大きい)によって、夏の学習能力低下の証拠をつかんだものの、その値は比較的小さいものであり、すべての人に影響を与えるほどのものではないと主張した(3)。 このデータが役に立つ理由は、コンピュータ化された一貫した評価から得られたデータであるからだ。子どもは春の年度終了前と、秋の新年度にテストを受けた。テストは頻繁に行われ、研究者は実際に学習月数を測定して、夏の間に失われた「学習月」の数を正確に見積もることができた。 その結果、キンダー(幼稚園)から小学1年生までの間に、平均的な子どもは夏休みに約1.5か月分の学習を失ってしまっていた。損失量は高学年になると少し大きくなり、5年生から6年生までは約2か月分強だった。しかし、この平均値は範囲の大きさを隠してしまっている。 実は、幼稚園から小学1年生への移行期では、4か月分の"損失"から2か月分の"増加"まで、子どもによって幅があったのだ。これは大きな差だ。長年の学校教育の間にこの差が拡大したと想像できるだろう。