なぜ市町村は警戒レベル5「災害発生情報」を発令しないのか?
気象庁が28日早朝、佐賀県と福岡県、長崎県の市町村に大雨特別警報を発表した(同日午後2時55分にすべて解除)。 大雨特別警報は「避難勧告や避難指示(緊急)に相当する気象状況の次元をはるかに超えるような現象をターゲットに発表するもの」「発表時には何らかの災害がすでに発生している可能性が極めて高い」(いずれも気象庁の発表資料より)と位置付けられている。 そして、今年度から導入された5段階の大雨警戒レベルでは、大雨特別警報は危険度や緊急度が最も高い「レベル5」に相当する情報となっている。 しかし、本来の警戒レベル5は市町村が発令するものとされている。今年3月に行われた「避難勧告等に関するガイドライン」(避難勧告ガイドライン)の改定によって、新たに市町村が発令することが可能となった「災害発生情報」にひもづいている。
「災害発生情報」って何?
ところで市町村が発令することができるようになった「災害発生情報」とは何なのか。 内閣府防災担当の資料などによると、市町村が「災害が実際に発生していることを把握した場合に、可能な範囲で【警戒レベル5】災害発生情報として発令し、災害の発生を伝え、住民に命を守る行動を求める」と書かれている。 このほか、大雨特別警報については、「洪水や土砂災害の発生情報ではないものの、災害が既に発生している蓋然性が極めて高い情報として、警戒レベル5相当情報[洪水]や警戒レベル5相当情報[土砂災害]として運用する。ただし、市町村長は警戒レベル5の災害発生情報の発令基準としては用いない」と記されている。 つまり、「大雨特別警報は警戒レベル5に類する状況ではあるが、まだ災害発生を確認できていないので正式な5ではない。正式な5を発令するのはあくまで、災害の発生を把握することができた市町村」ということがいえそうだ。
「災害発生情報」の発令はあったのか
内閣府防災担当の資料では、災害発生情報について「氾濫発生情報のほか、水防団等からの報告やカメラ画像等により把握できた場合に可能な範囲で発令する」とされている。 このことを踏まえて、28日午前を振り返ってみると、確かに警戒レベル5相当である大雨特別警報が気象庁から発表されたが、自治体が警戒レベル5「災害発生情報」を発令した、という話は確認されていない。 例えば、大雨特別警報が発表された佐賀市役所のホームページを見てみると、大雨特別警報発表より前に、警戒レベル3「避難準備・高齢者等避難開始」、警戒レベル4「避難勧告」を順次発令している。ただ、警戒レベル5相当の大雨特別警報が発表された後に発令したのは、警戒レベル4「避難指示(緊急)」だった。 同じページ上に、「人的被害 附属小学校南側で水没車両から救助された70歳女性が病院に搬送され意識不明」や「通行止め国道263号線 官人橋~昭和橋 浸水被害のため」と書かれており、これを踏まえると、災害はすでに発生している、ともとれそうなのだが、警戒レベル5「災害発生情報」を発令したとの表記は見当たらなかった。 また、同じ佐賀県の武雄市では、大雨特別警報の発表後、まもなく公式ツイッターで「災害がすでに発生しており、命を守る最善の行動をとってください」との情報を流したり、その後、軽自動車に乗って流された男性の死亡が確認されるなどしたが、やはり市内全域に避難指示(緊急)、という表記はあるが、警戒レベル5「災害発生情報」の発令の表記は確認できなかった。 つまり、どのような理由によるものなのかはわからないが、本来、市町村が発令してもいいはずの「相当」なし警戒レベル5「災害発生情報」を、住民の命を守る情報として活用したところはないということだ。