父から継いだ社長を2年半で解任された苦い記憶 「経営より家督?」中小企業の「アトツギ問題」を支援するコンサル社長
◆自身の失敗、いきなりの解任
――関根さんご自身に、失敗した経験があると? その通りです。私は新潟で製造業を営む家の長男として生まれ、一度は父の事業を継ぎました。 父から会社を引き継いだ後は、自分なりに社内改革を進めて順調に業績を伸ばしていました。 ところが、就任からわずか2年半で、解任されてしまいました。 ――まず、どのような形で後継者になったのでしょうか。 何の前触れもなく、ある日いきなり「あとはお前に任す」と実印と銀行印だけ渡されて、引き継ぎはおしまいでした。 それから3週間で社長に就任しました。2018年3月のことです。 ――誰の指導も受けないまま、引き継ぎもないままで、何から手をつけたのですか? それまでの会社は父のトップダウンで、経営全般にわたり「勘頼み」でした。そうした社内体質を変えていきました。 日報も月次会計の報告もない会社でしたから、全国の事業所に日々の報告や月次決算のルールなどを設けました。 また、人事考課の基準を決めるなど、会計や人事の「見える化」を進めたのです。業績は、右肩上がりに伸びていきました。 ところが、それから2年半、ようやく経営者として手ごたえを感じ始めた2020年9月の取締役会のことです。 いきなり弟から社長解任の動議が出され、そのまま私は解任されました。 経営に一切口を出さないことを条件に、代表取締役会長に就任しましたが、2022年2月、16年間勤めた家業を辞任し、自社株もすべて手放して会社を去りました。
◆「家を継ぐこと」と「経営を継ぐこと」の違い
――解任された理由は何だったのでしょう? 取締役会に説明を求めましたが、正式な回答はもらえませんでした。 だから、理由を確かめたわけではなく憶測に過ぎませんが、両親が私に期待していた「家督を継ぐこと」を軽視したためではないかと気づいたのです。 ――身近な人たちでありながら、気配に気づかなかった? 今思えば、社長就任後も自社株を30%しかもたせてもらえなかったので、そこで父の真意に気づくべきだったかもしれません。 「経営」より「家」のことを重視してほしかったということを。 ――その時の手痛い失敗の経験から、現在の事業に生きる心得を学ばれたのでしょうか。 同族企業の事業承継には、似て非なる2つの要素があります。 ひとつは、会社の経営を引き継ぐことです。それとともにもうひとつ、「跡取り」という要素があります。 跡取りとは、家や土地などの資産やお墓、仏壇を守る人、つまりは家督を継ぐ人です。 問題は、どちらにウエイトを置くかということ。 地方の企業では、家督の方が重んじられることも多いと知っておかなければなりません。 ――後継者は経営より「家」を継ぐことが期待されることもあると? もちろん経営の実力も必要ですが、父親である現社長が身を引いて、跡継ぎに託す上で、「家」の問題が予想以上に大事な場合もあるのです。 「家」を継ぐこととは、一族が代々、円満な関係で繁栄していく基盤を固めることです。 私が失敗した原因は、「後継者」=「経営者」だと勘違いして、家のことを深く考えていなかったことにありました。 ――会社を去った後、事業承継のコンサルを志したのはなぜでしょうか? 自分と同じような境遇の後継者は他にもいるはずだと思ったからです。 私と同じ轍を踏む人を一人でもなくすために、自分が後継者の立場で学んだことを伝えたいと考えました。 中小企業の事業承継は理屈ではないところも多いのです。 自分の苦い経験を生かし、実践的な指導によって事業承継に苦しむ後継者をサポートし、日本の事業承継を幸福なものに変えたいと思っています。
■プロフィール
ランナーズ株式会社 代表取締役 関根壮至 1972年、新潟県出身。成蹊大学工学卒、2023年3月法政大学専門職大学院MBA修士課程修了。電子機器製造業、モバイル通信キャリア、外資系大手ソフトウェア企業(米国Microsoft日本法人)を経て、同族が経営する企業の代表取締役になるも、2年半で解任される。2021年4月にランナーズ株式会社を設立し、自身の経営者経験を生かした後継者育成に取り組んでいる。