番記者のちょっといい話 ヤクルト・奥川恭伸、4月の挨拶で「見ていてくださいよ」
(日本生命セ・パ交流戦、オリックス3-5ヤクルト、1回戦、ヤクルト1勝、14日、京セラ)ヤクルト・奥川恭伸投手(23)が14日、980日ぶりの白星をつかんだ。サンケイスポーツの歴代担当記者が復活の舞台裏を振り返った。 【写真】言葉を交わす奥川と内山の「星稜コンビ」 いつも屈託のない笑顔を見せる奥川でも、その笑顔が消えた瞬間があった。2022年3月29日の巨人戦を最後に長い2軍生活がスタート。リハビリ当初は2軍施設の埼玉・戸田球場に行くとあいさつは返してくれるが、笑顔はなかった。 青空の下、2人で歩きながら何度も胸の内を聞こうとした。「なんで(けがをするのが)俺なんですかね」「もう逃げ出したいですよ」「どん底まで落ちました」。SNSやネットニュースを一切開かなくなり、不安に駆られて一睡もできないほど悩んでいた時期もあった。記者として何ができるのか。せめてこの時間だけは野球を忘れてほしいと、練習後に1時間以上も趣味や好物の焼き肉についてくだらない話をしたときもあった。 記者は2022、23年と奥川の復帰への道のりを取材してきたが、昨年限りで担当がヤクルトからロッテに変わった。最後に会ったのは2軍で両チームが戦った今年4月の試合。「野球って楽しいですよね。見ていてくださいよ」。こんがりと日焼けした肌でこう投げかけられたときの笑顔が忘れられない。やっぱり1軍の試合で登板している瞬間が一番輝いている。(2022、23年ヤクルト担当・森祥太郎)