京都の伝統工芸はなぜ「絶滅の危機」に瀕しているのか:職人70人以上にヒアリングしてわかったこと(後編)
完成したレッドリスト相関図
京都の伝統工芸品にはどのようなものがあって、それぞれがどのように関係しているのか。存続の危機に瀕している工芸品は、どこに問題を抱えて(素材なのか、需要なのか)消えつつあるのか。それを誰もが直感的に理解するためには、職人さんたちから聴き取った調査結果を図化して、京都の中でそれぞれの工芸品が繋がっている様子を図示する必要があった。しかしながら、本業の職場でもわかりづらい資料を作っては上司に怒られ続けてきた筆者には、残念ながら、調査結果を一覧性ある資料に落とし込むのは100%無理だ。 そんな時に救世主が現れた。それがStudio colife3の池内健さんだった。池内さんは普段建築のお仕事をされているが、筆者の脳内に散らかった情報を丁寧にまとめて下さった。そこから定期的に池内さんとも全体の方向性を話した。恐らく伝統工芸の現状にはその時点ではあまり詳しくなかったようだが、打ち合わせの回数を経るごとにどんどん理解を深められて、最終的には筆者と同じ理解レベルで資料制作を進めることができたのは、本当に同氏の能力の高さからだったと思う。 それでも、資料づくりは簡単ではなかった。調査から得られた示唆があまりに多すぎて、あれもこれも資料に組み込もうとすると、結局何を示したいのかがわからなくなってしまうからだ。そこで、今回作成した2枚の資料それぞれに1つの大きなメッセージを託すことにした。1枚目は、京都の地図を背景に、「茶道」や「歌舞伎」といった諸芸道や「寺社」「花街」といった無形文化がプロットされている図だ。それを囲むように、工芸品とその工程の様子が描かれている。上述の通り、工芸品を考える際に、それを使う場所をイメージすることは重要だと思い、無形文化・有形文化が力を合わせて京文化を守っている様子を描き出した。 2枚目は、京都の無形文化を中心に伝統工芸内の関係と危機を表したネットワーク図である。細かな説明は避けるが、工程、道具、素材に分けられており、それぞれ円の大きさで消滅の危機度がわかるようになっている(円が大きいほど危機に瀕している)。そして、それぞれの工芸品が具体的にどの無形文化に紐づいているかがわかる。例えば、尺八を例にとると、職人は京都市内で2名、全国でも数名ということなので、工程は全体的に大きめの円にした。道具も、やすりやガリ棒という道具が手に入りづらくなっており(昔はもっと尺八職人がいたため専門の道具屋がいたが、今は師匠から受け継いだ道具を大事に利用しているそうだ)、また、原材料の竹はまっすぐな竹が手に入らず、職人さん自らが竹林で材料になりそうな竹を探しているそうだ。今後はそうした背景情報を組み込むことでより充実した資料になると思う。 この相関図によって、異なる品目で共通の素材が不足していることがわかれば、横の連携が可能になるかもしれない。例えばそうした活用を期待している。また、日本の大手企業を中心に、金銭的な寄付ではない形での社会貢献活動が可能かもしれない。