香港「禁区」開放、中国と自由に行き来 「昔の田舎町」オーバーツーリズムに懸念
金融や中国ビジネスで繁栄する国際都市の印象が強い香港に、市民でさえ許可なく立ち入れない「禁区」がある。中国本土との緩衝地帯として70年以上続いてきた。香港政府は近年、制限を緩和して観光客誘致を進める政策に転換。許可証を申請して訪れると、隣接する中国・深センへ住民が自由に越境する変わった光景が広がっていた。(共同通信=一井源太郎) 英国植民地時代の1951年に禁区に指定された香港北東部の沙頭角地区。深センとつながる小道で男性が住民用のカードをちらりと検問所の警察官に見せ、境界線を自転車で通過していた。沙頭角の小学校から深セン側に下校する親子の姿も。小学生の息子を持つ女性は沙頭角の住民だが「便利で値段の安い深センにマンションを買った」。息子を越境通学させている。 深セン側にも特別管理区が設定され、深セン中心部への通行は管理されている。禁区は中国からの密入境や密輸を防ぐため設けられ、住民以外は長年原則立ち入り禁止だった。沙頭角は1978年に始まった改革・開放政策の初期に交易でにぎわったが、1997年の英国から中国への香港返還後、深センと香港の出入境管理が簡素化され、その存在は多くの人に忘れられていった。
香港では2019年の大規模反政府デモ以降、新型コロナウイルス禍の影響もあり観光業が低迷。当局は沙頭角の特殊な状況や、開発から取り残されたノスタルジックな雰囲気が観光資源になるとみて、2022年6月に第1弾の規制緩和に踏み切り団体客の受け入れを解禁。2024年1月には第2弾として1日に個人客300人の受け入れを始めた。 沙頭角の歴史文化を紹介する博物館の運営者、李以強さんは「昔の香港の田舎町が凍結保存されたような雰囲気が最大の魅力だ」と語る。ただ「観光客は歓迎だが、急激に増えると住民生活に影響が及ぶ」とオーバーツーリズム(観光公害)を懸念する声もある。