ブレーキキャリパーが完全固着!! そんなときには「お湯と水圧」に頼る
ブレーキホースをつないでシステムレイアウト。そして……!?
エアー圧ではどうにもならないことがわかったので、ブレーキホースを接続して、仮となるシステムレイアウトを構築。そして、ブレーキマスターのリザーブタンクに水道水を注ぎ、ブリーダーを外した状況で水道水をキャリパー本体へ送り込み、エアー抜き作業を行った。不要なバーハンドルを万力にクランプして、そのハンドルにブレーキマスターシリンダーを固定することで、作業安定性が向上する。
ピストンツールを併用して片側ピストンだけを抜かない
ブレーキピストンツールをキャリパーにセットして、水道水ながらエアー抜きしてみた。さらにブレーキレバーを握って、水道水をキャリパーへ送り込んでいくと、ピストンが動き始めた!!やはりエアー圧よりも水圧(油圧)の方が、効率良く圧力を伝えられるようだ。2個あるキャリパーピストンの片側だけが動き出したので、抜け落ちないようにピストンツールで保持し、反対側のピストンに圧力が集中させるようにブレーキレバーを握ってみた。すると、2個のピストンが同じように出てきたので、ピストンツールよりも薄いスパナをセットして、さらにピストンを露出させてみた。
分解ギリギリまで2個1セットで引き抜く理由とは!?
ギリギリまでピストンを露出させたら、キャリパーピストン脱着ツールでピストン内側をクランプして2個のピストンを引き抜いた。ピストンを引き抜く際には、バケツやトレイや洗面器を用意して、キャリパーボディ内から流れ出る水道水を受け止めよう。定期的なブレーキクリーニングやメンテナンスを実践していれば、単純な分解にこれほど苦労することも無いのだ。ここまでの作業ができて、ようやくキャリパーボディやピストンのクリーニングと部品の点検に進むことができる。ボロいバイク部品のメンテナンスは、とにかく大変!!ようやく「ふりだし」に戻れた。 ────────── 【POINT】 ▶ポイント1・水道水で茹でることで部品が温まり分解しやすくなる ▶ポイント2・ブレーキピストンツールやキャリパーピストン脱着ツールを併用することで効果的な作業進行が可能になる ▶ポイント3・マルチピストンキャリパーは、常にすべてのピストンを同期させ、肝心の圧力を維持するように心掛けよう ────────── 久しぶりにバイクを移動させようとして、ブレーキレバーを握った瞬間に「あれ!?」とか「やっちまった……」となった経験があるライダーやサンデーメカニックは数多いと思う。仮に、症状が軽症なら、キャリパーボディのピストンが収まるシリンダー背面をゴムハンマーでコツコツっと叩くことで、ピストンが僅かに戻り、バイクは押し歩きできるレベルになる。しかし、固着が酷い対向ピストンキャリパーの場合は、左右キャリパーボディの締め付けを緩めて、車体からキャリパーボディを取り外さなくては、バイクを押し歩きすらできなくなってしまう。そんな経験、ありませんか? そのような劣悪コンディションのバイクをメンテナンスしたり、レストアした経験がある方なら、バイクを押し歩きできないその辛さは、ご理解いただけると思う。 キャリパーボディを取り外してみたら、ピストンシールやダストシールが、通称「ネッシー」のようにハミ出していたのがこのキャリパーだった。こうなってしまうと、キャリパーピストン脱着ツールでつまんで、ピストンを引き抜きことはまずできない。過去に何度か同じようなコンディションのブレーキキャリパーを分解メンテナンスした経験があるが、このようなキャリパーを分解する際に効果的なのが「熱利用」による分解作業だ。なかでも一番手っ取り早いのが、やかんや鍋にお湯を沸かし、その中に固着したブレーキキャリパーを沈めてしっかり温めてから作業に取り掛かると良いようだ。固着ピストンでも軽症なものであれば、ボディを温めた後にフルード通路へ圧縮エアーを吹き込むことで、ピストンを押し出すことができる。圧縮エアーをいきなり吹き込んでしまうと、ピストンが吹っ飛ばされて怪我を負ってしまう可能性もあるので、エアーを吹き込む際には、キャリパーボディにウエスを巻いたり、ウエスで覆ってから作業進行するのが良い。 エアーの力ではどうにもならないこともある。そんなときにはブレーキホースを使ってシステム構築し、ブレーキフルードの代わりに「水道水」を使ってエアー抜き実践しよう。そして、固着したピストンを水圧で押し出してみよう。無駄にブレーキフルードを使うことなく、その後のパーツクリーニングも、お気楽かつ容易に行うことができる。作業進行時の注意点は、シングルピストンキャリパーの場合は、一気に作業しても問題ないが、マルチピストンキャリパーの場合は、すべてのピストンが同期=同じだけ出るように調整しながら作業進行しなくてはいけない。ひとつだけ優先して抜き取ってしまうと、すべてのピストンに水圧を掛けられなくなってしまうからだ。ピストンが抜けるギリギリまでは、すべてのピストンの同期を保ちながら作業進行しよう。
たぐちかつみ