年々増えるF1のグランプリ開催数……もっと良いモノにするために、必要なこと
■F1が新しいイベントに求めるもの
前述の通り、F1は現在、タイや韓国、ルワンダなどと新たな開催契約を結ぶことについて交渉を行っている。このことは、F1がヨーロッパの伝統的なサーキットを離れ、政府のサポートがある大規模なイベントを増やそうとしているのではないかという懸念の元となっている。しかしヤングは、こういった懸念を払拭したいと考えている。 「2025年の開催カレンダーを発表した時、伝統的なイベントと新しいイベントのバランスが取れていると言いました。これはファンが何を大切にしているか、F1の革新は何かという我々の考えが本当に反映されています。伝統的なサーキットのいくつかには、常に居場所があると考えています」 しかしイタリアが今のようにモンツァとイモラの2箇所でレースを開催し続けるのは不可能だろう。また、オランダとベルギーを隔年開催にするという話も、根強く残っている。さらにバルセロナ(カタルニア・サーキット)も、マドリードでの開催がスタートした後も開催権を維持し続けるのは、簡単ではないはずだ。 「今年、ヨーロッパでのレースのいくつかは、契約が更新されます。隔年開催のシステムが理に適っている状況もあるため、両者の間には緊張関係があるんです」 ヤング氏はそう認める。 「ただし契約更新の戦略には、様々な要素が関係します。サーキットは、コース上でのコンテンツや伝統的な要素を活かしたレースという点で、どんな成果を生み出しているのでしょうか?」 「次に、商業的な取り決めを検討します。そしてプロモーターはファンにどんなサービスを提供しているか、主要な指標を満たしているかどうかということも検討するんです。収容能力が増加したが、それでより広いファン層に対応できるかということもです」 「新しいグランプリを追加するというプレッシャーや要望を考えると、パートナーを失うことなく枠を空ける方法のひとつは、ふたつ以上のイベントを隔年開催のモデルに移行することです。それは、プロモーターが誰であるかによって、ケース・バイ・ケースで変わります。サーキットに関連したビジネスを年間を通じて運営しているのか、それともF1だけのプロモートなのかということによっても異なるんです」 「後者の場合なら、年間のビジネスやスタッフを維持するのが難しくなる可能性があるでしょう。したがって、隔年開催のモデルが理に適っていて、それを存続させることができるかどうかは、かなり個別の話し合いになります」 ヤング氏と彼女のチームは、契約の更新と新規契約のための交渉を続けている。この熾烈な争いを勝ち抜く上では、持続可能性が非常に重要な要素になるという。 「持続可能性は、非常に重要な部分を占めています。それはつまり、プロモーターがイベントや施設をどう運営するかということです。施設の電力の供給方法、サーキット内で食べ物や飲み物を提供する際のカップや容器の運用など……そういう部分は、今後非常に大きな問題となります」 「もうひとつは接続性という側面です。それが実現すれば、F1ともっと深く繋がることができるようになるかもしれません。それが実現すれば、観客席に座って携帯電話などで中継も視聴し、コース上を走るマシンを実際に見ながら、実況や解説を聞くことができるかもしれません。現時点では、ほとんどのサーキットで観客の全てが同時にストリーミングに接続することなどできません。接続性という問題は、将来のファンの体験を形作る上で非常に重要になると考えています」 「3つ目のポイントは、人々がイベントでどういう楽しい時間を過ごせるかっという、非常に基本的なことに戻ります。つまりアクセス、交通、食べ物、日陰、水など、野外イベントで楽しい1日を過ごすために必要な全ての重要な要素です」 2024年も、そして2025年も、開催カレンダーはまだ完璧ではないことは明らかだ。しかし8ヵ月で24戦を詰め込むためには、完璧ということはありえないだろう。 「毎年、どんな小さな変更ができるのかを検討しています。でも、コミュニティが満場一致で完璧だと言えるモノはおそらくないでしょう」 ヤング氏はそう認める。 「我々は引き続き、段階的に改善していけるよう検討を進めていきます」
Filip Cleeren