「まったく予測不能」な日本海側の地震リスク…カギ握る2つの「ひずみ集中帯」とは?
能登半島地震は、日本海側でも大きな地震が発生することを改めて示した。しかし、太平洋側のような長期評価に基づく予測モデルがない日本海側では、防災対策が遅れている。今後激甚災害に見舞われる可能性の高い太平洋側のバックアップ拠点となることも見越して、日本海側の防災対策の早急な整備が求められる。※本稿は、鎌田浩毅『M9地震に備えよ 南海トラフ・九州・北海道』(PHP新書)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● 能登半島地震のメカニズム 日本海東縁ひずみ集中帯の形成 能登半島地震は、太平洋側ではなく日本海側でも地震による大きな災害が起きることをあらためて突きつけた。日本海側の防災対策が十分でなかった理由の1つに、太平洋側のように地震の発生場所とメカニズムに関する明確なモデルがなかった点が挙げられる。くわしく説明しよう。 日本列島は4枚のプレートに囲まれている。太平洋側は「海のプレート」である太平洋プレートとフィリピン海プレートが、また日本海側は「陸のプレート」である北米プレートとユーラシアプレートがある(下図)。 前者は後者の下に沈み込んでおり、その境界に深い溝状の地形、すなわち海溝またトラフが生じている。その一方、日本海にある北米プレートとユーラシアプレートの境界では、2枚のプレートが互いに押し合っている。 日本海で北米プレートとユーラシアプレートが衝突している境界では、海のプレートが陸のプレートの下に定常的に沈み込んでいる太平洋側と異なり、地震の発生に規則性が見られない。すなわち、沈み込むプレートが跳ね返ることで定期的に起きる海溝型の巨大地震は起きない。
そして能登半島の東側から北へ伸びて新潟・秋田・北海道沖を通る海底には、南北方向に断層や褶曲などの地殻変動を表す地形が確認されている。こうした地域は地殻に対して加わるストレスによって生じたので「日本海東縁ひずみ集中帯」と呼ばれている(下図)。 ● 予測不可能な日本海側 新潟―神戸ひずみ集中帯の危機 日本海東縁ひずみ集中帯では過去に大きな地震とそれにともなう津波が発生した。具体的には1983年の日本海中部地震(M7.7)、1993年の北海道南西沖地震(M7.8)、2007年の新潟県中越沖地震(M6.8)などだが、いずれも大きな被害をもたらした。 その活動は内陸にも及び、2004年の新潟県中越地震や2014年に長野県北部地震などの直下型地震を引き起こした原因と考えられている。こうした陸上にかかるひずみ集中帯は「新潟―神戸ひずみ集中帯」と呼ばれている。 その中では過去に阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震、M7.3)、濃尾地震(M8.0)、新潟県中越地震(M6.8)が起きている。 2つのひずみ集中帯が生じる原因の1つは、太平洋プレートが日本列島を絶えず押していることにある。汎地球測位システム(GPS)で観測された地殻の変動方向を見ると、ひずみ集中帯の領域でその方向が乱れているのがわかる(下図)。