自社のありのままを公開することで得られるもの
■得た知識を共有する 会社の戦略が妥当性を欠いている、つまり、会社の目的や能力、現実に即していないと感じると、社員は、ありえないと反発する。いや、幸運なケースではと付け加えるべきだろう。戦略が信じられない社員は、たいがい、そしらぬ顔を決め込む。反発などせず、黙って無視して日々の業務をこなすのだ。これを経営思想家のピーター・ドラッカーは「企業において文化は戦略に勝る」という言葉で表現している。 環境・社会のパフォーマンスを改善する戦略は重要であり、無視などされたのではたまったものではないし、会社全体の文化がそちらを向いていなければ、上から指示しただけでどうにかなるほど簡単なものでもない。また、自然の凋落を逆転させようという試みはまだ始まったばかりで、我々初心者が学び合えるように共有すべきものでもある。 パタゴニアは、何年も前から、自社の業務をありのままに見直し、世間に公開しようと努力してきた。だから「フットプリント」のページも、もともと、大学院生やNGO、そして、油井や農場からスタートして製造・流通を経てパタゴニアの倉庫まで、製品がどう作られているのかを知りたいとこだわるごく一部の顧客とやりとりできるウェブサイトにしようと作ったものだ。 ところが、予想外の反応が2方面から返ってきた。ひとつは社員である。自分たちが作っているモノについて詳しく知った結果、きちんと考えて協力を惜しまなくなった。また、社会・環境に関連して自分たちはどうすべきなのか、社内における検討も深まっていった。井戸端会議も愚痴が減り、まじめな話が増えた。みんなで協力して問題を解決しようという気運が高まったのだ。 もうひとつ、驚かされたのはサプライヤーの反応だ。アービンド社の例を紹介しよう。アービンド社はインドの大手サプライヤーで、契約農家にオーガニックコットンを育ててもらい、自社工場で糸を紡いでジーンズに仕上げるという垂直統合型の会社である。いまは、リジェネラティブ・オーガニックなコットンのパイロットプログラムに協力してもらっている。 実は15年前、アービンド社と取引を始めた際、我々は、社内規定に反することをした。パタゴニアでは、新しく取引する工場は現地視察による社会監査を原則としているが、このアービンド社は例外にしたのだ。社会的責任を担当する役員が辞めてしまい、後任がまだ着任していなかったとか、アービンドは評判がとてもよかったなど、言い訳はいろいろとあるのだが、ともかく、このときはいいかげんなことをしたわけだ。 新しいソーシャル・レスポンシビリティ担当役員が着任し、製造開始後に現地を視察すると、パタゴニアが定める行動規範に反することがいろいろとみつかった。薬品を使う場所でサンダルを履いている、排水池の周りに手すりがない、盗難防止で救急用品の棚に鍵がかけられているなど、小さな問題から大きな問題、文化的な問題までがあった。だから、このような問題をパタゴニアのウェブサイトで取りあげ、一緒に問題点を解決していきたいとアービンド社に申し入れることにした。 なかなかに厳しい打ち合わせになったが、最終的にアービンドは了承してくれた。そして、こういう問題があり、それをこう解決したと公開したことで、アービンドがあらたな顧客を獲得するという結果になった。我々の透明性もさることながら、アービンドの透明性に心を打たれた顧客がいたわけだ。その後は、ウチも「フットプリント」のページで取りあげてほしいという声がほかのサプライヤーから次々上がるようになった。