「ニセモノ」の存在が「本物」の”善人”を駆逐する…人間だけが「読心術」を獲得できたおぞましすぎる理由
他人をだますために自分をだます
シグナルには信頼できるものもあれば、信頼できないものもある。そして信頼できないシグナルは、ニセの情報を可能な限り信頼できる情報に見せかける方向へと進化する。そのため、私たちのほうも、他人の真の意図を推測する能力がどんどん高まっていく。 次の文を見てみよう。「ジュリアがヨハンに嫉妬しているとファティは思わないことをシャルロッテが知っているのを、パウルは忘れていた」。この文が示す人間関係は複雑で、多くの人間の気持ちが重層的に説明されているが、意味は誰にだって理解できるだろう。人間ほど巧みに他人の信念、意図、あるいは感情を理解できる―「読心術」と呼ばれることもある能力をもつ―動物はほかにいない。どうやら人間は進化を通じて、他人の精神を直感的に察知する性能を身につけたようだ。 他人の心を読む能力と他人をだまそうとする能力が対立し、読心能力がさらに向上する。そのような弁証法的なプロセスを通じて、人間の精神は“深みを増した”のだ。真の意図を他人に隠す最善の方法は、真の意図を“自分自身にも”隠すことだろう。 高価な絵画を、その作品がすばらしいからという建て前で集めている人も、学校に自分の名前を刻印したグランドピアノを寄付したのは完全に慈善的な理由からだと主張する人も、おそらくとても誠実なのだ。嘘をついているのではない。 しかし、よほど信じやすい人でもない限り、そのような見せかけの理由の裏にはステータスシンボルの顕示というじつに身勝手な動機があることがすぐにわかるだろう。本当の動機が自分にもわからないのは、そのほうが他人に嘘を信じ込ませやすくなるからだ。 『「不合理な宗教」や「無駄に難しい学術用語」の存在理由を説明する“逆転の発想”…「強者への偽装」を不可能にする戦略を説明する「ハンディキャップ理論」とは』へ続く
ハンノ・ザウアー、長谷川 圭
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