世田谷一家殺人事件から15年、NHKがネットと報道を結びつけるその意義とは
インターネットで記憶を呼び覚ます
今年3月に放送した番組の第一弾では、手に血がついた男や、犯人が脱ぎ捨てたとされるトレーナーなど、犯人像を語るうえで必要な遺留品などを取り上げました。電話やツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて、生放送中と放送後あわせて3000件の意見や情報が寄せられました。板倉さんは「具体的な情報を提示すると反応が返ってくることが分かった」と手応えを感じています。 番組がインターネットによるコミュニケーションを取り入れたのには、「事件の真相に迫るために、止まってしまった情報をもう一度、集めたい」という狙いがあります。 インターネットが広く普及した現在では、事件が起きたら、SNSのユーザーが目撃したことをツイートできる時代になっています。その分、目撃情報などが手に入りやすいのです。しかし、未解決事件の多くは10年以上前に起きていて、インターネット、とりわけSNSはいまと比べて普及はしていませんでした。しかし、番組が事件の手がかりを放送することで、「目撃者の記憶のスイッチが入り、記憶を呼び覚ますことで、新たな情報が集まってくることを期待しています」と板倉さんは強調します。 実際、その呼びかけに応じるように、前回の放送後、「警察には言いたくないけど、報道なら言えそうと思った」「警察に行ったけれど、向きあってくれなかった」「警察に行くと事件に巻き込まれてしまうのではないか」など、捜査機関には相談に行けないけれど、報道機関であれば話を聞いてくれるのではないかという期待とともに、電話やSNSを通じて意見や情報が寄せられたのです。
警察を対象にした取材だけでは、ニュースが深まらない
しかし、報道番組としては、寄せられた情報すべてをそのまま放送することはできません。NHKでは、警視庁を担当する記者のほか、記者クラブなど担当を持たない遊軍記者、地方で事件取材の経験がある記者が取材に携わっていて、寄せられた情報をもとに、実際に20~30人の情報提供者や目撃者らに会って真実性を確かめてきました。 また、何度も現場を訪れ、捜査関係者への直接取材はもちろん、独自に入手した捜査資料を読み返し、証言が捜査資料と符号しているかどうかを確認したと言います。気が遠くなる作業ですが、板倉さんは「真偽を確かめ、それをクロスチェックしなければなりません。『違う』というのも情報になります。丹念に裏付けをとる作業が重要ですが、はずれても当たり前というのが取材の基本です」と話し、取材に取材を重ねる調査報道の重要性を訴えます。 「報道機関の役割は真相に迫ることであって、犯人を捕まえることではありません。なぜ未解決のままなのか、そこを検証するための番組でもあるのです」と板倉さん。しかし、結果として、その取り組みが警察を動かすこともあります。 2011年に板倉さんにお会いしたとき、板倉さんは「警察を対象にした取材だけでは、ニュースが深まりません。真相に迫る調査報道をしなければ我々は必要なくなってしまう」と話していました。インターネットと放送の力を借りながら、事件の真相に迫るという報道のありようを変えようという一つの挑戦でもあると言えるのでしょう。 NHKスペシャル「未解決事件 追跡プロジェクト」 Twitter : Facebook