『ビバリーヒルズ・コップ2』エディ・マーフィのアドリブ演技を巧みに活写したトニー・スコットの監督術
室内に貼られたスタローンのポスター
蛇足かもしれないが、お馴染みのキャラクター、ローズウッド(ジャッジ・ラインホルド)が住む部屋にデカデカと貼られているシルヴェスター・スタローンの映画ポスターについても触れておきたい。 まず踏まえるべきは、『ビバリーヒルズ・コップ』シリーズがもともとスタローン主演で企画始動していたこと。それもスタローンの持ち味に即してシリアスなアクションがちりばめられた作品になる予定だった。しかし想定される予算が膨大になったため企画が立ち行かなくなり、結果として「スタローンOUT、エディ・マーフィIN」という顛末へ流れ着くことに。この時に日の目をみなかったアクションのアイディアは、スタローンがその後の作品『コブラ』(86)の中で大いに活かしたと言われている。 シリーズ3作目でも、台詞の中でスタローンの名前がチラリと登場するのだけれど、我々はそういった箇所で、本作とスタローンの切ってもきれない歴史や関係性について思いを馳せるべきなのかもしれない。 ちなみに、『ビバリーヒルズ・コップ2』の悪役を担ったブリジット・ニールセンは『ロッキー4/炎の友情』(85)や『コブラ』でも広く知られ、なおかつ85年~87年にかけてスタローンの妻でもあった人だ。極めて変則的ではあるものの、本作内でも夫婦それぞれが強い印象を刻んでいるわけである。(そして当時、ニールセンとスコット監督が不倫関係に陥っていたらしいことも、一応、書き添えておきたい。) かくして、マーティン・ブレストからのバトンを受け継ぎつつ、決して先例に縛られずアクションぶっちぎりに解き放たれた本作。このバトンは7年後の『ビバリーヒルズ・コップ3』(94)では名匠ジョン・ランディスが引き継ぐことになる。 結果的にこのシリーズは、エディ・マーフィを中心に回っている刑事ドラマでありながら、監督によって三者三様の、ノリと味わいが絶妙に異なる「競作」として仕上がっているところこそ、たまらない魅力なのではないだろうか。Netflix映画としてお目見えするシリーズ第4弾にも大いに期待したいものである。 参考資料:『ビバリーヒルズ・コップ1~3』DVD 収録映像 文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU 1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 (c)Photofest / Getty Images
牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU