【海外トピックス】フォルクスワーゲンが米新興EVメーカーのリヴィアンに巨額投資をする理由
予断を許さぬリヴィアンの未来
両社の合意の発表を受けてリヴィアンの株価は約30%上昇して15ドルにまでなりましたが、上場当時の熱狂からは程遠く、昨年シャオペンへの出資時に同社の株価が15ドルから23ドルに50%上昇したのに比べても控えめな反応でした。アナリストもリヴィアン株を「買い」とする人と「待て(ホールド)」とする向きに分かれています。同社は、2027年に単年営業黒字を目指していますが、それまでに70億ドルの損失をさらに重ねると予想されています。 現在の自己資金(79億ドル)と今回のVWからの出資で必要なキャッシュは確保できたようですが、リヴィアンの今年の販売計画は昨年と同レベルの5万7000台。R2の納車開始は2026年前半とまだ2年先です。年20万台規模の生産を達成して期間黒字を目指す頃には、テスラはもちろん、GMやフォード、ヒョンデやKIA、トヨタやホンダなどもEVを相次ぎ導入して限られたパイを争う市場になっていると想像されます。社員のチームワークを重んじ、独特のヘッドライトデザインや、販売手法でもリヴィアンスペースを主要都市に設けて顧客エンゲージメントを高めるなどユニークな手法も光りますが、果たして計画通り成長できるかは予断を許しません。
果たして新旧の自動車会社の結婚は成功するか
今回のVWとの提携はリヴィアンには渡りに船の話であり、VWの重厚で几帳面な企業文化によって意思決定のスピードが鈍化しないよう、事前にJ/Vの骨格や責任範囲をしっかりと詰めた点は周到です。VWとしては、万一うまくいかずにカリアッドの二の舞になれば被る影響は甚大で、より高いリスクを引き受けたと言えそうです。事実、VWの株価は今回の投資の発表でほとんど反応せず110ユーロ台で低迷したままですが、ブルーメCEOは「ウィン・ウィン」だと確信しており、ドイツの巨艦を方向転換するには今回のような思い切ったアプローチが必要との判断です。 VWの今回の動きからわかるのは、開発の主眼がハードウェアからソフトウェアとその基盤となるE/EアーキテクチャにシフトしたSDVでは、「既存の自動車メーカーは、複雑化したECUモジュールのため、OTAや機能の追加変更を行うにも何社ものサプライヤーとの調整が必要になる。その点、ゼロからアーキテクチャを構築できる新興メーカーの方が有利であり、リヴィアンは、R1シリーズとアマゾンに納入しているデリバリーバンのネットワークは完全に共有できている(スカレンジCEO)」という事実です。 10年前は、VWグループがエントリーから最高級車まで10を超えるブランドを擁しながらも、車台を共有することで量産効果を高め、高い利益を出せるのは強みでした。しかし、ソフトウェアの比重が飛躍的に高まったSDVの時代では、少ない車種で20%以上のマージンを上げてきたテスラのようなオペレーションがより資本効率が高いことが証明されています。多ブランドで多車種という複雑さを抱えるVWが、シャオペンやリヴィアンとの協力によって近年の苦境から解き放たれることになるのか、まだしばらく注視し続ける必要がありそうです。(了) ●著者プロフィール 丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意-混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。