「忙しくて本が読めない」を解決するには? 三宅香帆さんが希望を見出した1つの手段
スマホゲームはできるのに、読書はできない
【上田】本書の中で、自身の仕事や自己実現で役立つ以外の情報をノイズに感じて摂取できなくなるという話がありました。この例として『花束みたいな恋をした』という映画が挙げられています。 【三宅】『花束みたいな恋をした』に、主人公が仕事にのめり込むにつれて、元々好きだった小説や詩集が読めなくていって暇があればスマホゲームをする状態になる、というシーンがありまして。実際そういう人たちは多いのではないでしょうか。 仕事はある程度充実しているんだけれど、だからこそ昔から好きだった本や漫画が読めなくなる。ただ、スマホゲームはできるのに本は読めないという、この境目は何だろうと連載中ずっと考えていて、その結論が「ノイズ」かなと思っています。 会社員的な仕事って、必要な情報と必要じゃない情報をひたすら選り分ける作業をしないといけなくて、例えばメールにしても「これはすぐ返すメール」「これはちょっと考えてから返すメール」...みたいな感じでパパッと情報を選り分ける作業をするじゃないですか。そういう作業に慣れていくと、本が提供する"自分が知りたいこと"を超えた知識、想像を超えた展開はノイズとして受け取ってしまうんじゃないでしょうか。 ただ長期的に見れば、ノイズは本当のノイズではないと私は思っています。例えば仕事をする上でも、昔読んだ知識が今の仕事に繋がるとか、全然繋がると思っていなかったことが仕事になることがあります。結果的にはノイズが自分の個性や、強みを作ってくれることがあります。 しかし、今の社会ではノイズを取り入れて強みを作る時間は、優先順位が低くなる。長期的なことはちょっと後にして、今のことを頑張りましょうという流れになっていると思いますね。
オーディオブックの可能性
【上田】働きながら本を読む手段としてオーディオブックが広がり始めていると思っています。まさに私も隙間時間で読書をするということでしか時間がとれなくて、オーディオブックを使ったらたくさん本を読めるようになったということがあります。そういったオーディオブックの使い方について、著者としてどう思われますか? 【三宅】最初の方を読んで、自分の求めてるものじゃなかったら読むのをやめておこうと判断する読者さんが多いですが、オーディオブックだととりあえず聞き流しておくか、と思ってもらえるので著者としてはすごく良いなと思っています。 また、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、"働いていると『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が読めない問題"というのがありまして...(笑)。「なんで本で出したんですか! 読めないんですけど!」と言われることもあり、オーディオブックは早いうちから出させてもらったので、「忙しいけど久しぶりに本を読めました」という声を沢山いただいて嬉しかったです。 【上田】オーディオブックが広がってるのは、本を読むのが苦手な人が実は多いからじゃないかと思っています。人間がそもそも本を読むのが得意な生き物なのかという話がありまして。 人間は赤ちゃんの時に親から話しかけられて、パパとかママとか喋り出して、幼稚園・小学校で文字を学んでいく、そういった過程をとります。そうすると人間の言語は音声で記憶していて、文字は後付けであるというのが実は脳科学上の大前提です。脳がどう本を読むのかというと、まず文字を見て、脳内で文字を音声に変換して、それから言語として認識理解するというプロセスをふむんです。 目で見て音声に変換するというタスクが得意な脳・不得意な脳というのは、先天的に決まっているという話があります。これが全く出来ないとなると、ディスレクシアといって本が読めないという症状になります。 字も本も読めるんだけど、読むのが遅い人たちもいます。読むのが遅いということは、結構な時間をとらないとじっくり読書ができないので、一冊読むのに多く時間がかかる人は仕事に支障がでるから読めないということが起きるのだと思います。そこで、オーディオブックであればさくっと聴けるので使っていただけているのではないかなと。 【三宅】私も聞いた話だと、やっぱり小・中学校のときに読書の時間があるけれども、ある一定の子どもたちはそもそも文字を読むのが苦手だったり、苦手と言わないまでもちょっとテンポがゆっくりだったりするそうです。そのことで、読書に苦手意識を持ったまま大人になった人でも、オーディオブックだったら読める方も絶対たくさんいらっしゃいますし、読書人口を増やす希望だなと思っています。
PHPオンライン編集部